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福岡100ラボmeet up! 第12回『AIを活用して、人生100年時代の社会課題を解決する仲間を探そう!!』イベントレポート
「福岡100ラボ」は、人生100年時代に向けた未来のまちづくりプロジェクト「福岡100」を産学官民オール福岡で推進していくための共創の場です。第12回となる「福岡100ラボmeet up!」では、高齢化の進展に伴い、増大する医療・福祉のニーズに対して、AIをどう活用できるか、またその場合に考えるべき課題などについて意見交換を行いました。
〈登壇者一覧〉
・株式会社エル・ティー・エス執行役員/デジタル庁 決済送金統括/東京都 業務改革アドバイザー 神瀬 功崇 氏
・株式会社オーガホールディングス 代表取締役社長 大賀 崇浩 氏
・合同会社AUTOCARE CEO 岸田 隆之 氏
・ザ・ハーモニー株式会社 代表取締役CEO 高橋 和也 氏
〈目次〉
生成AIでパーソナライズされたケアを実現する
LLMとRAGを効果的に組み合わせ
フィジカルAIとマルチモーダルでさらなる進化へ
AIに「使われる」のではなく「使う」意識を
福祉の現場に最適な活用方法を設計する
人の価値を最大化するためのAI
AIを活用して豊かな未来に貢献したい
福岡というフィールドで進化のモデルを作る
生成AIでパーソナライズされたケアを実現する

エル・ティー・エス執行役員 神瀬(以下 神瀬):さまざまな産業においてAIの導入が進んできましたが、人員削減が可能になる、新たな収益機会が生まれるといった経済的リターンが主な動機となっていました。一方、福祉の分野においては、こうした経済合理性だけでは語りきれない側面があります。国全体の社会課題を俯瞰すると、少子高齢化が進行しており、高齢者人口は今後も増加していきます。本来であれば介護人材も増えていく必要がありますが、実際には維持すら難しく、減少傾向にあります。その結果、需要と供給のアンバランスが年々深刻化しています。資料右側のグラフでも示されているように、黒(供給)とグレー(需要)の乖離は、今後さらに広がっていく状況にあります。

こうした状況は福岡においても例外ではありません。単純に人員を増やすのではなく、AIの活用による現場の負担軽減や業務の効率化を図ることで、福祉の価値を改めて引き上げていく取り組みが必要です。そこで第1部では、そもそもAIとはどのようなものかを軽くおさらいした上で、福祉分野においてどのような活用方法が考えられるのかについてお話ししたいと思います。
LLMとRAGを効果的に組み合わせる
神瀬:現在、AIは第4世代と呼ばれる段階に入っています。第1世代は今から約70年前に登場し、「推論」が可能になりました。その後、第2、第3世代へと進むにつれて、簡単な応答ができるようになったり、AlphaGoというAIプログラムが囲碁の世界チャンピオンに勝利したりと、「深層学習」が進展しました。これらはあくまで膨大なパターンの中から最適解を導く確率論的なアプローチでしたが、第4世代では「生成AI」と呼ばれる新たな段階に入っています。

生成AIは、その名の通り生成する能力を持っています。正確には、ゼロから生成したように見えるほど高精度な出力を行うということです。例えば「人間の顔を作って」と指示すると、一見実在の人物のような画像を生成しますが、実際には膨大な人の顔のパーツのデータを組み合わせて調整しながら福笑いのように構成しています。ゼロから創造するクリエイションとは異なりますが、実用上は生成と呼べるレベルです。
福祉の分野で考えた場合、こうした技術は対話型の認知症ケアやケアプランの自動作成など、一人ひとりに合わせてパーソナライズされたケアの実現に応用できるのではないかと思っています。
また、AI活用を考える上での重要な概念に「LLM」と「RAG」があります。LLM(大規模言語モデル)は、いわば「頭のいい素人」です。その頭の良さを測定するために大学入試問題を解かせる実験が行われてきましたが、最新のフルチューニングしたLLMですと、東京大学の理科三類に合格するほどのレベルの高さに到達しています。しかし、一方で特定の業務や現場に関する知識は持ち合わせていないため、そこを補うのがRAG(検索拡張生成)です。これは業務マニュアルや手順書、もっというとカンニングペーパーに近いもので、賢い人に手順書をしっかり教え込めば、本当の意味でAIが活用できるというイメージです。

AIを活用する場合、LLM自体を開発するには何兆円という規模の投資が必要になるため、利用側は今あるLLMを使いながら、RAGをどう作っていくかがポイントとなります。ただLLMも画像生成に長けているものや文章を書くのが得意なものなど、それぞれ性質が異なるため、必要に応じて最適なものを選ぶことが大切です。
このLLMとRAGを組み合わせる形で、海外では医療分野でのAI活用が進んでいます。例えば資料右下の「Oracle Clinical Assist」はアメリカの地方都市・モンタナ州で行われている事例で、人手を確保しにくい僻地での事務作業にAIを活用することで、医師の業務負担を軽減する取り組みです。

海外では日本以上に深刻な社会課題を抱えている地域もあるほか、日本とは情報の取扱いが異なるという制度背景もあり、AIの積極的な利活用が進みつつあります。特に電子カルテの情報なども共有できる制度基盤がある場合は、AIに情報を与えられる情報が豊富になりますので、ユースケースも加速度的に充実します。
これらのAI活用では決して特別高度なLLMを使っているわけではなく、私たちでも利用可能なLLMと同じものを使っています。つまり、ユースケースを描いてRAGを構築すれば、比較的容易に同じようなことができます。私もエンジニアですので、フリーのツールでRAGの構築をしてLLMに搭載することで簡易なAIを作ってみたのですが、大体30分程度ででき上がりました。
フィジカルAIとマルチモーダルでさらなる進化へ
神瀬:こうした活用の先にあるのが、ロボットとAIが連携する「フィジカルAI」と呼ばれる進化です。従来型とは違い、資料右側にあるようなAIの頭脳を持ったロボットが医療現場でも見られ始めています。この分野ではNVIDIA社というアメリカの企業が特に強いです。もともと画像処理用のプロセッサを作ってきた会社ですが、最近ではロボットに「目」を与えるような技術を開発するなど、AIとロボットの融合を進めています。

ロボットには「身体」と「空間認識」という2つの観点があります。前者は物理的な機械を指していて、ロボットアーム制御の精密化などに代表される進化が目覚ましいです。
一方、後者のトレンドとして「デジタルツイン」と呼ばれるものがあります。実世界のレイアウトや誰がどこに座っているかなどの情報を仮想空間上にコピーし、再現するという技術です。以前から建設分野などで使われており、強風時に橋が耐えられるかといったシミュレーションにも活用されてきました。これをロボットに応用すると、事前に空間を理解させることで、障害物を避けながら動くルートなどを設計できるようになります。こうした技術がフィジカルAIの基盤になっています。

もう一つの進化が「マルチモーダル」です。これは、テキストやデータのようなデータだけでなく、視覚や音声、さらには声の震えや視線の動きといった微細な情報までAIで活用していこうという動きです。こうした機微は福祉の分野では特に重要です。例えば、強がりで「大丈夫です」と言っているのをそのまま受け取るのが従来のAIでしたが、マルチモーダルは「他の情報を考慮すると、本当は大丈夫ではないのではないか?」という踏み込んだ気づきまで与えてくれるような効果が期待できます。こうした進化によって、AIはより人に寄り添う形へと進んでいくのではないかと思っています。

つまり、フィジカルAIは「体を持つ」進化、マルチモーダルは「感覚を増やす」進化です。これらが組み合わさると、AIは人の言葉や意味だけでなく状態も理解し、さらに行動までできるようになります。いわばドラえもんのような世界観にも近づいてきているのかなと思います。
AIに「使われる」のではなく「使う」意識を
神瀬:しかしAIはあくまで道具であり、主役は生身の人間です。最終的な意思決定は人間が行う必要があります。これは海外でも重視されている考え方です。ここで押さえておきたいのが「ハルシネーション」の問題です。AIはハルシネーションというもっともらしい嘘をつくことがあり、きちんと検証しないまま鵜呑みにしてしまうリスクがあります。
そのため、「AIハーネス」や「AIガードレール」といった制御の仕組みがカギとなります。ハーネスは馬具、ガードレールは車の逸脱や転落を防ぐものですよね。つまり、AIという乗り物に乗ってハンドルや手綱を離してしまうと、大きな事故につながる可能性があるということです。とはいえ、便利な技術であることは間違いないため、最初はアラートの補助やチェック業務、下書き作成など、リスクの低い限定的な用途から使い始めていくのがいいでしょう。
AIはチューニングを誤ると、倫理を飛び越えた提案をしてくることがあります。以前、Xでバズったのですが、「退職者を減らすにはどうしたらいいか」という質問に対し、「退職を禁止する内規を作ればいい」という極端な回答を出したことがありました。こうしたリスクがあることを知っておくのと同時に、人間と同じようにAIにも倫理的な初期教育を施す必要があるのではないかと言われています。
このような人間中心の考え方は「Human-in-the-loop」と呼ばれています。AIがどのような回答をしても、最終的な判断や責任は必ず人間が持つというのは、AI利用における大前提です。例えば、AIに作らせた資料の内容を問われて「AIにやらせたのでわかりません」と言うような人がいますが、これは今後通用しなくなります。結果を検証できないのであれば、そのAIは使うべきではないということです。

実際に海外では、バーチャル看護師のAIが不適切な投薬を提案したり、状況に応じた判断ができず極端な行動を取ってしまった実例があります。最終的に人間がそこに気づけたのはいいことではありますが、完全自律化までの道のりはまだまだ長いのが現状です。
このように、AIは便利である一方で、使い方と制御が非常に重要になります。具体的な方法としては、先程申し上げた「AIハーネス」と「AIガードレール」です。

ガードレールは、AIへの初期設定です。例えば「あなたは脳外科医歴25年のベテラン医師で、倫理観が強く、過去に死亡事故を目の当たりにしたことで過敏になっています」などの設定を与え、回答のエビデンスを必ずセットで出すよう指示すると、根拠のないものをきれいな日本語でごまかすようなリスクを減らすことができます。また、AIに憲法(Constitution)と呼ばれる一連の原則を定義し、それに従って動作するよう教育する「Constitutional AI」という手法もあります。
一方、ハーネスは倫理面の制御です。AIは場合によっては差別的・不適切な発言をすることがあり、過去にもそうした事例が報告されています。そのため、明確かつ絶対的なルールを与えたり、問題があれば停止できる仕組みを用意したりすることも大切です。
福祉の現場に最適な活用方法を設計する
神瀬:こうした制御を実現できたならば、AIは非常に有用なツールになります。特に現場では「気づかせる」「チェックする」「下書きを作る」といった用途から使い始めるのが現実的です。ただし、AIを導入すれば自動的にうまくいくわけではないため、AIを使いこなせる仕組みや情報の行き渡らせ方を改めて設計する必要があります。

福祉現場での活用においては大きく3つのパターンが考えられます。1つ目はセンサーやデバイスとAIを組み合わせて状態の可視化と予測の検知を行うこと。2つ目は、スマートフォンやアプリとの連携で、記録や業務の効率化を図ること。そして、3つ目は、エンタメやコミュニケーションとの組み合わせで、アバターや対話を通じて行動変容や予防を促すというものです。このように適切に設計すれば、福祉の分野でも十分にAIの活用は可能です。

まず1つ目の「センサー・デバイス×AI」についてですが、見守りセンサーの例がわかりやすいかと思います。介護老人ホームなどの施設においては、センサーを個人に装着するか、廊下などの空間に設置するかといった違いはあるものの、一定数導入することで、スタッフの負担軽減が期待できます。特に夜勤に関しては、2024年度の介護報酬改定により見守り機器の設置で夜間の必要職員数が緩和されるようになったため、人員配置を最適化できるとともに、結果として経済的なリターンも見込めます。
また、センサーの設置には継続的なコストが発生しますが、資料右のグラフが示すように、初期費用は導入初年度に集中する一方で、長期的には2年目あたりで損益分岐点に達し、3年目以降に投資回収が進むという試算もあります。さらに、人材不足や採用難が深刻な中、職員に長く働いてもらえる環境づくりにもつながると考えられます。

2024年の介護報酬改定に関連しては、夜勤体制の話に加え、データ提出やフィードバックの仕組みを通じてPDCAを回す基盤づくりが求められています。これは、介護現場全体のDXを進める第一歩になると考えられます。ITの分野では「測定できないものは制御できない」という原則があります。これをセンサーに置き換えると、データを取得・活用しなければ、AI導入に限らずDX全体も進まないということになります。

具体例としては、おむつに装着して排泄を検知するセンサーや、下腹部に装着して膀胱の状態を把握し、排尿のタイミングを予測するセンサーなどが普及してきています。

ここで強調したいのは、こうした技術は単に職員の負担軽減だけでなく、利用者の尊厳にも関わるという点です。排泄に関する不安やストレスの軽減は、利用者本人にとっても大きな価値があり、これは経済合理性とは別の大切な要素です。
また、これらの技術を普及させていくには、単体製品として売り切るのではなく、データ分析を含めたプラットフォームとして提供することが重要です。取得したデータをそのまま活用するだけでなく、統計分析や商品開発への応用などの価値創出も考えられます。

さらに、センサーは通信を伴うため、現場での設置や保守、安定したネットワーク環境の整備が不可欠です。加えて、ベッドメーカーなどの関連事業者と連携し、異なるソフトウェアやアプリケーション間をつないでデータ共有を行う仕組みづくり(API設計)も重要なポイントになります。
人の価値を最大化するためのAI
神瀬:ここからは、第2部にご登壇いただく各社のお取り組みと絡めてご説明していきたいと思います。
まず「スマホ・アプリ×AI」の事例となるのが、AUTOCAREさんが提供されている「ケア記録AIアプリFonLog(フォンログ)」というサービスです。これは職員の方々が「〇〇さんに〇〇のケアを行った」といった情報を時間帯と一緒に記録できるアプリで、業務日報のように活用されているケースも多いと考えられます。

ケア記録AIアプリ「FonLog」
ここで重要なのは、必ずしもITリテラシーが高いとは言えない職員の方々にとっても使いやすい設計になっている点です。私の義母も介護の仕事に携わっていますが、ITに慣れているわけではなく、加えて老眼もあるため、小さなスマホ画面での入力には負担を感じています。こうした課題に対して、直感的な操作や音声入力といった仕組みを取り入れているのがこのアプリの特徴です。入力の負担を軽減することで、職員全体の業務軽減にもつながります。また、APIによって外部システムとのデータ連携も強化されており、実際に業務全体で約3分の1程度の効率化が実現できているという実感値も得られています。
このようなアプリの活用領域としては、送迎や訪問ルートの最適化も挙げられます。ルート最適化はAIの登場以前から扱われてきた古典的なテーマですが、現在ではAIを使うことで交通状況や混雑情報なども踏まえたルート生成・提案が可能になっています。

この種のサービスのポイントをまとめると、カギとなるのは「導入」と「定着」です。どれだけ高機能であっても、使いにくければ現場に受け入れられず、効果を発揮する前に利用されなくなってしまいます。そのため、ユーザビリティの設計が極めて重要になります。加えて、一般職員と管理者に分けてアカウントを作成するなど、権限管理や運用面での工夫も不可欠です。

また、UI設計についても、従来の画面操作だけでなく音声インターフェースなども含めて、ITに苦手意識を持つ方でも使いやすい工夫が求められます。肝心なのは「あれもこれもできる」という機能の豊富さを訴求すること以上に、「誰でも使える」という視点です。
続いて「エンタメ・コミュニケーション×AI」の事例となるのが、オーガホールディングス(大賀薬局)さんの「薬剤戦士オーガマン」です。このキャラクターは、患者さん向けの情報発信だけでなく、社内における理念浸透やコミュニケーション促進といった用途にも活用されており、企業のアイコンとして機能しています。

薬剤師ヒーロー「薬剤戦士オーガマン」
ここで重要なのは、AIの高度な技術そのものというよりも「どのように見せるか」という点です。マーケティングに近い観点ですね。服薬指導や残薬防止の啓発活動においては、親しみやすいキャラクターを活用することで自然に行動変容を促すことができます。また、社内向けには「AIオーガマン」を相談窓口として活用し、将来的には経営者の考えを反映した代理人として機能する可能性も考えられます。
もう1つの事例が、ザ・ハーモニーさんが開発した「だいちゃん」です。このロボットは高齢者の話し相手として活用されています。

認知症特化型コミュニケーションロボット「だいちゃん」
こで重要なのは、課題を解決することだけが価値ではないという点です。AIは利便性を高めるツールであると同時に、安心感を生み出す存在としても捉えることができます。特に介護施設では、家族と離れて生活する中で不安や孤独を感じる場面もあります。そうした時、気軽に対話できる存在があることが精神的な安定につながります。
さらに人間相手では話しにくいことでも、ロボットなら話せるという側面もあります。だいちゃんはぬいぐるみに一方的に話しかけるといったものではなく、状況に応じて会話の流れを変えたり、反応が鈍い場合は歌うことを提案したりするなど、より自然な対話が可能なAIです。
このようにエンタメ領域においては、ワクワク感や記憶に残る体験が重要な価値になります。さらに大賀薬局さんのように、一見すると「おふざけ」に見えても裏には深い戦略があり、ビジネスとして継続的に成立しているという点は、マーケティングの面で捉えても成功事例と言えるでしょう。

一方で、パーソナルな体験を提供するためには、プライバシー保護やデータ管理、暗号化といった技術的な基盤も同時に重要になります。さらに、継続的にコンテンツを更新し、利用者に新しい体験を提供し続ける仕組みづくりも欠かせません。
これまでにご紹介した全ての事例に共通しているのは、「小さく始めて大きく育てる」ステップが必要だということです。

まずは現場の小さな課題やニーズからスタートし、仮説をもって概念実証を行います。いきなり大きな課題に取り組むと、導入のハードルが高くなり、現場が疲弊してしまうからです。次にスモールスタートとして一部の部署やメンバーで試験的に運用し、成果が見えた段階で徐々に展開していきます。そして、最終的に本業務へ統合しますが、ここでは業務プロセスそのものを見直し、AIを前提とした形に再設計するのが望ましいです。いわゆるBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の考え方です。ただし重要なのは、先程も申し上げたHuman-in-the-Loopの原則に基づくこと。AIはあくまで人の能力を拡張するためのツールであり、完全に代替するものではありません。
第1部の総括としてお伝えしたいのは、「人ならではの価値を最大化するためにテクノロジーを使う」という考え方です。特に福祉の分野では、「人の温度が感じられる」という要素が非常に重要です。AIによって人の負担を軽減しながら、その分、人にしかできないケアに集中できる環境をつくることが大切です。そして、こうした取り組みは1人で完結するものではなく、意見交換や共創の中で発展していくものだと考えています。
AIを活用して豊かな未来に貢献したい

神瀬:第2部では、先程ご紹介した各社の取り組みを掘り下げながら、AIを活用した事業戦略について考えていきたいと思います。まずはみなさんの自己紹介をお願いします。
ザ・ハーモニー 高橋(以下 高橋):弊社は介護施設の運営とコミュニケーションロボット「だいちゃん」の開発・販売を行っています。「介護の未来をひらく。」というビジョンのもと、いかに少ない人員で質の高いケアを提供できるかを追求し、未来をひらいていきたいと考えています。
AUTOCARE 岸田(以下 岸田):弊社は九州工業大学発のベンチャー企業で、同大学が開発したアプリ「FonLog」の普及と、AIを活用した介護ITインストラクター・DXコンサルティングとしての活動も行っています。
オーガホールディングス 大賀(以下 大賀): 大賀薬局は1902年創業で、私は8年前に代表に就任し、「オーガマン」というヒーローを立ち上げ、自ら変身して悪の秘密結社と闘っております。昨年10月にはオーガホールディングスとして持株会社化を行い、グループ全体で「地域×医療×エンターテインメント× AI」を掛け合わせた取り組みを展開しています。エンタメ分野では、オーガマンを軸としたヒーローコンテンツを展開し、「ドゲンジャーズパートナーシップ制度」というスポンサー制度を構築。特撮番組の制作・活用を通じて、各企業のニーズに合ったサービスやソリューションを提供し、経済的価値の創出につなげています。さらに、こうした収益を残薬問題や予防医療の啓発活動などに投資し、社会保障費の抑制にも寄与する取り組みを進めています。
神瀬:ではみなさんに質問を投げかけていきたいと思います。まずザ・ハーモニーの高橋さんにお伺いしますが、だいちゃんを導入する際、ロボットだとかえって冷たいと思われるようなことはありませんか?
高橋:そう思われる方も一定数いらっしゃいます。でも実際にだいちゃんを使うと、認知高齢者の方々はすごく笑顔になるし、職員には話してくれないこともだいちゃんには話してくれたりするんです。その状態を見ずに先入観で「ロボットが介護をするんですか?」とおっしゃっているんですよね。以前、ある施設からも「『認知高齢者とお話しをするのは私たちの仕事だ』という声が看護師から上がったので、契約をキャンセルさせてほしい」と言われました。そこで「では、我々が持ってきたのがだいちゃんではなくドラえもんでも同じ意見が出たと思いますか?」と聞いたら、「出ないと思います」と。やはり人の認知を変えるのは大変なので、ご理解いただくまでは時間がかかると思っています。

神瀬:高齢者がだいちゃんに愛着を持つよう、デザイン面などにはどのような工夫を施していますか?
高橋:認知症のケアには赤ちゃんと接するのが効果的と言われているので、だっこしやすいサイズ感にしています。重さも当初は赤ちゃんに近い3kgにするつもりだったのですが、抱き続けるには重すぎるので、ぬいぐるみよりは重く、一般的なロボットよりも軽い約1kgにしました。さらに少し上目遣いになる角度に調整していたり、触り心地のいい素材を選んだりもしています。
神瀬:だいちゃんという名前も印象的ですが、由来は?
高橋:2つの意味がありまして、1つは後期高齢者の方の男の子の名前ランキングに「大〇」が多く入っているので、愛着を持ってもらえるんじゃないかということ。もう1つが、認知症のシンボルカラーがオレンジで、うちのコーポレートカラーもオレンジなので、オレンジの日本語読みの「橙(だいだい)」から取りました。
神瀬:続いてAUTOCAREの岸田さんに伺いたいのですが、現場のスタッフが新しいツールの導入を嫌がるようなことはありませんか?また、その場合にはどんな工夫をすることで課題解決ができるでしょうか?
岸田:導入の意思決定には、トップダウンや展示会での検討、オンラインでの問い合わせなど、さまざまなパターンがあります。多くの企業ではすでに既存ソフトを使っているため、まずは今の運用で困っていることについてヒアリングすることが大切です。この考え方は、介護のケアプランと同じで、適切なアセスメントができていなければ、本当に合ったツールにはたどり着けません。また、「この機能があるからFonLogが適している」という流れがないと、現場の納得も得られません。そこで私はいきなりツールを提案するのではなく、「Excelや手書きでやっているところはありますか?」といった基本的なところから整理します。自社商品を無理に勧めることもしません。

神瀬:アセスメントの結果によっては、他社製品や別の解決策を提案することもありますか?
岸田:そうですね。例えば、勤怠管理ソフトなどはスタッフ1人あたりの月額コストが高く、現在Excelで運用している企業にとっては導入のハードルが高いケースがあります。さらに現場によっては勤務条件が複雑で初期設定の負担が大きく、デモの時間すら確保できないこともあります。そこで、既存のExcelをベースに私の方で半自動化を行い、施設側で運用できる状態まで整えるような支援も行っています。
神瀬:では大賀薬局の大賀さんに伺います。現在、オーガマンを中心とした多角的なDXに注力されていますが、戦略の全体像や手応えを教えてください。
大賀:オーガマンの取り組みがスタートしたのは2019年10月で、YouTubeでプロモーション動画を公開したところ大きな反響がありました。ただ、目的は話題づくりではなく、残薬問題の啓発や、将来の医療費削減の必要性を子どもたちに伝えることです。高齢者は自分の子や配偶者の言うことは聞かなくても、孫の言葉には耳を傾けることが多いですよね。孫から「お薬ちゃんと飲んでね」「お酒飲みすぎだよ」と言われれば行動が変わるかもしれない。まずは子どもをつかむことがマーケティングの基本でもありますので、オーガマンというキャラクターを作って啓発活動を行ってきました。
コロナ禍では手洗い・うがいなどの衛生啓発を中心に行い、幼稚園や保育園を訪問してオーガマンが指導すると、手洗い場に行列ができるといった行動変容が見られました。最近ではフロスの啓発も行っており、「『オーガマンに言われたからやる』と積極的に歯磨きをするようになった」という保護者からの声もいただいています。

さらに最近ではAIとの掛け合わせにも取り組んでおり、社内規定や業務マニュアルなどを学習させ、社員が総務や人事に問い合わせる前にLINEで確認できる「AIオーガマン」を開発しました。業務効率の向上に加え、私の著書や取材記事などをAIオーガマンに読み込ませることで、思想や理念浸透の役割も担わせています。また、回答内容は定期的に確認・改善し、表現やニュアンスまで含めて精度を高めています。
一方、顧客向けには「オーガマンアンチエイジング」という別のキャラクターも新たに展開していきます。オーガマンの強化型ヒーローで、施設と連携して健康診断を促すためのAIです。このようにエンタメとAIを組み合わせ、予防・未病の段階から地域に働きかけることで1人ひとりの行動変容を促し、医療費の削減につなげていくことが私たちのテーマです。
福岡というフィールドで進化のモデルを作る
神瀬:高橋さんは介護ロボットを普及させる上で、現在の補助金等の制度に何か思うところはありますか?また、だいちゃんは全国で200台以上導入されているそうですが、そこから見えた課題やリアルな声も教えていただきたいです。
橋:まず補助金があるのは非常にありがたく、制度の内容も年々改善されてきていると感じています。ただ、もっと簡単に使えたらいいのにという思いは正直ありますね。税金を原資としている以上、一定の複雑さは避けられないとは思いますが、こんな時代だからこそ、よりシンプルで効率的な仕組みが実現できるのではないかと感じています。
だいちゃんをはじめとするコミュニケーションロボットは、これまでさまざまな企業が取り組んできましたが、まだ社会に広く定着しているとは言えません。実際にだいちゃんを導入いただいた施設でも、解約にいたるケースはあります。特に、だいちゃんを入れることで人手が減らせると期待されていた場合には、短期間の契約で終わることが多いです。

一方、長く使い続けてくださっている施設に共通しているのは「だいちゃんがいないと介護ができないわけではないが、あった方がよりよいケアができる」という認識です。本来は24時間365日、利用者1人ひとりに寄り添いたいという現場の思いはありますが、現実的には人員や時間に限りがあり、優先順位が生まれてしまいます。特に身体の動きが少ない方や寝たきりに近い方は関わる時間が少なくなりがちです。そうした方々は、テレビや音楽といった受動的な刺激では反応が薄いことも多いのですが、対話などのコミュニケーションには変化が見られることがあります。そこでだいちゃんを活用し、1日30分でも会話や歌を通じて笑顔になっていただけるのであれば大きな価値があると、現場からも評価をいただいています。
フィジカルAIが発展してヒューマノイドが社会実装され、介護や医療の現場にも広く導入される未来は確実に訪れると思いますが、あくまで目的は認知症高齢者のQOLを向上させること。その結果として、職員の負担が軽減されるという順番が重要だと考えています。効率性や労働生産性を最優先にしてしまうと、極端な話、隔離や拘束といった手段にも傾きかねません。そこにAIが使われるような状況は決してあってはならないと思っています。
神瀬:続いて岸田さんに伺いたいのですが、FonLogのような成功モデルを他の自治体や施設に広める上でのポイントは何だと思いますか?
岸田:正直に言うと、FonLogは全てのケースにフィットするツールではありません。だからこそ既存の基幹システム周辺をどう設計するかという視点が大切だと考えています。そこでポイントになるのが人材育成です。昨年度と今年度にかけて、厚労省が「介護デジタル中核人材育成研修」の事業を行っていますが、、滋賀県独自の同様の取り組みに講師として関わらせていただきました。に講師として関わらせていただきました。この取り組みは、介護現場におけるDXや生産性向上を担うリーダーを育成することを目的としており、現場の課題解決に直結する非常に意義深い内容でした。こうした人材育成は、事業所単体での取り組みには限界があります。行政が関与しながら、中長期的な視点で計画的に推進して聞くことが重要だと感じています。福岡においても、ぜひ同様の取り組みが実現することを期待しています。

神瀬:では、アプリに蓄積された介護記録データは、将来的にどんな活用ができるでしょうか?
岸田:FonLogでは、センサー情報や基本情報、過去の記録などを蓄積し、それらをもとにAIが分析・助言を行う仕組みの構築を目指しています。理想は、施設長以上に利用者の状況を把握したAIが、的確なアドバイスをできる状態です。ただし、そのためには質の高いデータが不可欠です。ここで課題となるのが、厚労省の科学的介護情報システム「LIFE」を含む既存の介護データの限界です。本来必要なのは「何をしたか」という具体的な介入のデータですが、「LIFE」にはアセスメントや計画を記録する項目はあっても、「誰が、いつ、何を、どれくらい行ったか」といった具体的な介入の実施記録を収集する仕組みにはなっていません。結果として「LIFE」からのフィードバックは平均値ベースの抽象的な内容にとどまりがちです。
また、FonLogでは、データを構造化し、できるだけ選択式で入力できる仕組みを採用しています。音声入力も普及しつつありますが、特に新人職員にとっては「何を記録すべきか」自体がわからないことも多く、必ずしも有効とは限りません。むしろチェックリスト形式の入力の方が、結果として活用しやすいデータが蓄積されることもあります。重要なのは「データがある」ことではなく、「活用できるデータであること」です。
神瀬:では最後に大賀さんに伺いますが、医療費や社会保障費の課題について、地域の健康拠点として今後どのような取り組みを目指していらっしゃいますか?
大賀:今、国費の半分以上が社会保障に使われており、このままでは現在の制度は破綻しかねません。私たち民間企業ができることは、行動変容を促すこと。未病予防や早期発見の領域を突き詰めて取り組むしかないと考えています。特に75歳以上の医療費負担は1割で、残りの9割はみなさんの税金でまかなわれています。この理解を広めるための啓発も行っていく必要があると思っています。
ただし医療費の抑制に関してはスクリーニングが必要です。例えば花粉症や風邪などの症状には市販薬を購入していただければ、医療機関への過剰な依存を防ぐことができます。一方で、早期発見が重要な病気については、適切な受診や2次検査への誘導が欠かせません。私自身も昨年、腎臓のガンが偶然2次検査で発見され、無事治療できましたが、あともう少しでステージ3以上という状態でした。
そこで重要になるのが健診施設の活用で、単に病院に行ってもらうだけでなく、各人が必要な検査を受けられる仕組みが求められます。私たちはここにエンタメとAIを組み合わせ、個別に伴走できる仕組みを作ろうとしています。それが先程申し上げた、「日本一おせっかいなAI=オーガマンアンチエイジング」です。さらに行動変容を促すためには、エンタメの力に加えて「恐怖」も効果的です。「少しお酒を控えてみましょうか」より「このままだと肝硬変になりますよ」と恐怖を煽られた方がより行動変容につながりやすいですよね。人間の医師には優しい人と厳しい人がいますが、AIなら事前にインプットしておけば方針がブレません。
また、薬局も重要な拠点です。大賀薬局は福岡に100箇所近くあるため、処方箋受付だけでなく、特定保健指導やサプリメント・健康食品の提案を行うなど、未病予防の拠点として機能させたいと考えています。私は薬を減らすことこそ薬剤師の役割だと考えており、薬のない世界を作ることが目標です。さらに慢性疾患や不摂生による医療費と、小児がんや先天性疾患などとは分けて考えるべきだとも思っているので、そうした課題にも民間企業として切り込んでいきたいですね。今後、産学連携や地域の方々との協働も不可欠だと思っています。

神瀬:みなさんのお話を聞いて、各社でそれぞれデータの扱いやAIへの向き合い方に違いがあることがわかりました。そんな中でも共通して感じたのは、福岡というフィールドの中で新しい進化のモデルを作ろうとされている点です。今後の展開が非常に楽しみですし、私も微力ながらご協力できればと思います。本日はありがとうございました。
〈登壇者プロフィール 〉

神瀬 功崇 / 株式会社エル・ティー・エス執行役員/デジタル庁 決済送金統括/東京都 業務改革アドバイザー
日立製作所に入社後、外資系戦略コンサルティング等で金融向けコンサルティングに従事。2022年度にデジタル庁に参画し、決済・送金プロジェクト群を管掌。 2024年にLTSへ参画(兼業)し、金融・公共コンサルティング事業を統括。決済領域では戦略策定からシステム開発まで多数の支援実績を有す。デジタル庁初の完全内製案件の指揮、開発標準策定、ガバメントAIの企画を務める。

大賀 崇浩 / 株式会社オーガホールディングス 代表取締役社長
2008年入社。大学卒業後、大手商社を経て1902年創業の家業である大賀薬局に入社。調剤薬局事業本部長、ドラッグストア事業本部長を歴任し、2017年9月より現職。「奉仕こそ我らの務め」の理念のもと地域密着型薬局経営を推進。2019年に自社オリジナルヒーロー「薬剤戦師オーガマン」を誕生させ話題を集める。現在は「地域一体企業として日本一」を目指し、接遇日本一薬局の実現に取り組む。

岸田 隆之 / 合同会社AUTOCARE CEO
北九州市において、義肢装具メーカー、福祉用具事業を経験し、国立大学法人九州工業大学大学院の井上創造教授と合同会社オートケアを設立。ケア記録アプリ FonLogの開発、介護ITインストラクター養成、DXコンサルティングなど、介護事業所の業務改善・IT化を幅広く手がけるほか、各県からの伴走支援やセミナー・講演依頼にも対応している。
介護ITインストラクター/DXアドバイザー/北九州市ロボット・DX推進センター専門家

高橋 和也 / ザ・ハーモニー株式会社 代表取締役CEO
福岡県田川市出身。バンタンデザイン研究所メンズファッション学科卒業後、東京とイタリアでファッションデザイナーとして働く。帰国後、実家で両親と同居した際に両親の老化に直面し、介護課題を解決するために2012年4月福岡県飯塚市で同社を設立。以降、「介護の未来をひらく」をビジョンとして、認知症高齢者に特化した介護施設の運営展開、認知症コミュニケーションロボット「だいちゃん」の開発販売を行う。介護福祉士/認知症ケア専門士
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