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これまでは行政側から課題を提示し、官民共同事業を実施してきた「福岡100ラボ」。その成果を踏まえ、この度、新たな共創プラットフォームを開始することとなりました。先日行われたリニューアル発表イベントでは、人生100年時代に向けて取り組むべき課題や、共創プラットフォームの今後について登壇者が語り合いました。
〈開会あいさつ〉
・福岡市長 高島 宗一郎 氏
〈登壇者一覧〉
・株式会社ファミトラ アライアンス本部 第2グループ グループ長 桝田 哲史 氏
・一般財団法人ウェルネスサポートLab代表理事 笠 淑美 氏
・株式会社ウェルネスエキスパート代表取締役 内野 仁美 氏
・福岡市福祉局 局長 藤本 広一 氏
・福岡地域戦略推進協議会 事務局長 石丸 修平 氏
(目次)
担い手起点でオール福岡のチャレンジに昇華
全ての人が自分らしくいられる社会
福岡市と組むことのメリットを活かす
多様な相談の場と形式が必要
幅広い共創仲間とつながりたい
フラットで継続的なプラットフォームに
担い手起点でオール福岡のチャレンジに昇華
福岡100ラボ事務局 石丸(以下 石丸):まず私から、新たな共創プラットフォームの開始についてご説明します。福岡市では、高齢化と生産年齢人口の減少が同時かつ急激に起こるという人類未経験の課題に取り組むため、2017年から「福岡100」というチャレンジをスタートさせました。「福岡100」の「100」は、人生100年時代の「100」と、100個のアクションを起こそうという「100」の意味が込められていまして、アクションの方は2022年に達成し、次のフェーズに進んでいこうとしている状況です。
その中で出てくるのが「ウェルビーイング」というキーワードです。すでに聞き慣れている言葉ではありますが、いわゆる健康寿命の延伸には幸せに生きることが大事な要素となるため、「福岡100」ではウェルビーイングを大きなターゲットの一つに設定しています。そこから官民連携の観点でスタートした取り組みが「福岡100ラボ」です。
「福岡100ラボ」は企業からソリューション提案を受け付け、行政課題として解決したい点を提示し、社会実験や実装につなげていく取り組みです。市民のみなさまからも色々な課題やニーズを出していただき、専門家の視点も取り入れながら社会実装に向けた共創の場づくりを進めてきました。「若年層の痩せ課題」や「ICTを活用した買い物支援」、「重度障がいなどで外出困難な方の就労支援」など、これまでに7件の共同事業を実施・検討し、その中で「福岡100ラボmeet up!」という取り組みも開始しました。その名の通り、企業や行政関連団体、市民も含めた交流の場を設け、「地域の中でみんながつながる社会」や「暮らしの中で自然と楽しみながら健康になれる社会」などのテーマを設定して、実際の課題や先進的な事例について意見交換し、ネットワーキングをするといった内容です。
こうした取り組みの中で、官民が共同する従来の「福岡100ラボ」の座組を超えて、より色々な方々がコミュニティとしてつながっていくような場を形成し、そこから課題を顕在化させて事業や取り組みに落とし込んでいく必要があるのではないかと考えました。そこで、従来の行政起点のソリューション実装を「立ち上げ期」、次のステージである担い手起点の研究を「拡大期」と整理し、民間企業や市民といった担い手を起点に課題を捉え、「福岡100ラボ」をオール福岡でのチャレンジの場に昇華させていこうというのが、新たな共創プラットフォームの取り組みです。
この共創プラットフォームには「対話」と「創造」という2つのキーワードを掲げ、先程お話ししたミートアップを対話のスキームの中の「コミュニティ醸成機能」として位置付けます。ここでの出口は深掘りすべき課題と一緒に取り組む仲間を見つけることです。さまざまなプレイヤーが現場での課題とソリューションを共有することでつながり、共創のきっかけを得られる場にしたいと思っています。
そしてさらに、ミートアップで顕在化した課題に対して当事者やソリューションを持つ企業が連携し、新たなチャレンジを実行する場、すなわち「ラボ機能」となるワーキンググループを設置します。これによって官民それぞれの事業案や政策が見えてくることになります。こうした対話と創造の場を通じて、社会実装につなげていきます。
もちろん従来通り福岡市とも連携しながら、事業や社会実験の実施、規制緩和、ガイドラインの策定、他自治体への展開支援等を行っていきたいと考えております。今後のミートアップでも「女性の健康課題コミュニティ」や「介護人材WEB向上コミュニティ」など、さまざまなテーマに取り組んでいきたいと思っておりますので、みなさまからもご意見をいただければ幸いです。
そして今回、ワーキンググループの立ち上げにともない、「自己決定支援ワーキンググループ」の発足も併せて発表させていただきます。
認知症の方の数は今後増え続ける見込みで、認知症の方が保有する金融資産は2020年時点で170兆円にのぼり、資産凍結のリスクが大きな課題となっています。また2019年のG20財務大臣中央銀行総裁会議において制定された「高齢化と金融包括に関するG20福岡ポリシー・プライオリティ」を踏まえ、福岡市では何歳になっても自分らしい生き方を選択できるまちづくりを目指しています。
そうした背景から、これまで「エイジングリテラシー向上プロジェクト」というものを進めてきました。加齢によって身体機能がどのように変化し、それに伴ってどんな対策が必要かを、エイジングリテラシーという形で学んでいく取り組みです。具体的には、エイジングリテラシーを高めるハンドブックを制作して市内に約2万部設置し、市民向けに「最期まで自分らしく暮らすセミナー」を開催しております。このセミナーは市内7区の市民センターで計14回行い、延べ363名の方にご参加いただきました。参加者に実施したアンケートでは、「健康なうちに家族と話し合い、子どもたちが困らないようにしておこうと思った」などの声もいただいております。
また「最期まで自分らしい生き方を選択できる社会」をテーマに、関連するミートアップも開催しました。このミートアップでは、認知症を社会経済の問題と捉えた議論が展開され、福祉と金融機関が連携して課題解決のためのビジネスを生むことが必要なのではないかという意見が出ました。
こうした一連のフィードバックも含め、新たな共創プラットフォームにおけるワーキンググループの中に「自己決定支援ワーキンググループ」を発足することになった次第です。今お話ししたようにエイジングリテラシーの向上のためには「金融」というキーワードが重要になりますので、西日本シティ銀行さま、福岡銀行さまにもご協力いただき、まずは行員向けのセミナーを開催していきます。行員の方々は高齢者に日々向き合われておりますので、地域に根ざした金融機関の専門知識と高齢者支援のノウハウを融合させることで、より一層市民の金銭管理をサポートできる方法を模索していきたいと考えております。
今回新たに発足した「自己決定支援ワーキンググループ」の面々。株式会社ファミトラ、福岡市社会福祉協議会、西日本シティ銀行、福岡銀行、福岡市、福岡地域戦略推進協議会の6社が連携して取り組みを進めていく。
全ての人が自分らしくいられる社会
石丸:では、これから登壇者のみなさまとのセッションに移ります。テーマは「社会課題解決に向けて共創する仲間を探そう」ということで、社会課題を解決するための事業に取り組んだ経験のある方々と、新しい共創プラットフォームをどのように進めていくかについて議論したいと思っております。まずは自己紹介からお願いします。
株式会社ファミトラ 桝田(以下 桝田):我々ファミトラは「家族信託」という民事信託を運営している会社で、福岡市さま、福岡市社協さま、東京海上日動さまと連携し、先程お話があった「エイジングリテラシー向上プロジェクト」に取り組ませていただいております。この事業は、大多数のお子さんが親御さんの預金額を知らなかったり、親御さんの半数がお子さんに自分の思いを話せていなかったりといった親子間の現状がある中、財産管理の前段階から解決すべき課題があるのではないかと考えたことが発端となっています。
この事業で行った市民向けセミナーでは、「認知症」というキーワードに非常に興味を持っていただき、70〜80代を中心に多くの方にご参加いただきました。また市民だけにとどまらず、企業向けのセミナーも行っております。賛同企業も随時募集中ですので。興味がございましたらぜひお声がけください。
一般財団法人ウェルネスサポートLab笠(以下 笠):ウェルネスサポートLabは、前身のサービスを利用されていた90代のご婦人が、私と看護師歴20年の菊池、運動指導歴20年の権藤の思いに共感してくださり、遺贈寄付によって設立された団体です。設立当初より、少子高齢化の時代における看護師の持続可能な働き方への課題に取り組んでおり、看護師だけでなくヘルスケアのさまざまな専門家が関わっております。一番の特徴は、実務経験20年超えのエキスパートが揃っているということ。そのエキスパートの方々と他職種連携をしながら、それぞれが自分らしく働ける環境づくりを進めております。
課題解決のために、私たちはかかりつけナース制度「フレンドナース」の普及を軸に、働き世代とその子世代、シニア世代の健やかな暮らしをサポートしております。制度の具体的な内容としては、フレンドナースが「食べる」「動かす」「整える」「働く」ことを中心に、専門家と協力しながら、不安・不調期から療養期までワンストップで、ご本人だけでなくご家族も包括的にサポートするというものです。
また私たちは、自分の健康は誰かの健康の一部であり、ヘルシーな状態とは、病気であってもそうでなくても、人生の課題に対して人と協力しながらしなやかに対応できる状態のことだと考えております。ですので、そういった健やかさの重要性についても啓発を行っております。今の日本は小さな不安や不調をぼやきにくく、自然と我慢したり、なかったことにしてしまいがちです。その結果、ある日学校や会社に行けなくなったり、取り返しのつかない病気になってしまうことも大いにあります。不安や不調をぼやきやすい環境があれば、自分は気づかなくても周りがいつもとの違いに気づいてくれる。そんな社会づくりがヘルシーな日本へと導いてくれると思っています。
昨年度は「福岡100ラボ」にて、ユース事業「Me Careプロジェクト」を福岡市さんと共同で実施しました。きっかけとなったのは、福岡市の働く女性500名を対象に行ったオンライン相談事業です。これは令和3年度の経済産業省フェムテック等サポートサービス実証事業の採択事業として実施したものですが、その中で9割の女性が「不安・不調症状を常態化することにより行動変容ができない」ということがわかりました。
そこで、不安・不調という言葉にしがたい声を言葉にするサポートを継続することで、地方女性の自主性を育み、他者貢献へとつなぐエンパワーメントの一歩にしたいと考え、ユース世代を対象としたオンライン相談とSNSによる啓発活動をスタートしました。福岡市さんをはじめ多くのご協力を得ながら無事に1年間の活動を終えまして、今年度はユースを主体とした相談場所づくりと、オフラインの相談場所となるユースクリニックの運営にもチャレンジ中です。
株式会社ウェルネスエキスパート 内野(以下 内野):弊社は私が2021年に立ち上げた会社です。私は大学を卒業してから約13年、化粧品やエステティックなどの美容分野に携わってまいりました。フランスやブルガリア共和国のサロンでの就労や、スパ施設の立ち上げ事業などに関わる中で、美容にはエステティックやヘアケアなど色々なコンテンツがありますが、その横には必ず、内省やストレスケア、睡眠などに美容の時間をあてたいというお客さまのニーズがあることがわかりました。そこでスパサービスの構築やコンサルティング事業を行いたいと思い、弊社を立ち上げたという背景がございます。
弊社では福岡市のソーシャルスタートアップ成長支援事業の一つとして「高齢者向けセルフ美容」の取り組みをさせていただいております。きっかけはデイサービスの方の声で、従来の折り紙や切り絵のようなレクリエーションもいいのですが、もう少し代わり映えがして、高齢者の方が楽しんで参加できるようなものはないかというご相談を受けまして、この事業がスタートしました。
介護美容と呼ばれる一般的な訪問美容は、美容師さんやネイリストさん、美容部員さんがいらっしゃって施術をするので、高齢者の目線で見ると、100パーセント座ったり寝たりしているだけで自動的に完結するサービスです。しかし今回の事業はよりリハビリに近いもので、表向きは美容ですが、高齢者自身が知らず知らずのうちに手や足を動かすプログラムにしているため、機能訓練にもなります。
私たちは高齢者の衰弱や介護の問題に対して、身体的というよりは精神的な面からアプローチしたいと考えております。かつ高齢者を支えていくにあたっては、ご家族やケアワーカーさんも必ずセットになってきますので、そういった方々にも効果を実感していただけるプログラムをつくりたいと思って実装を進めております。目指すのは、高齢者や介護に関わる人全員が自分らしくあることを実現できる社会です。そのために医療・研究機関、事業者さんや自治体さん、地域の人々との連携も進めている状況です。
また、高齢者と施設の従業員さんとの間でしっかりコミュニケーションがとれていないことも意外と多かったりするので、この事業が交流の場にもなればいいなと思っています。そのため、大勢でご参加いただくイベント型にして、講習会のような形で実施しております。いつもレクリエーションに参加しない方が私たちのイベントにだけは参加してくださったり、ご自分の意思を自発的におっしゃられるようになったりといった前向きな変化も見え始めています。
特に美容は五感を刺激しますので、香りを嗅いだり、触れたり、見た目が変わったりすることで意欲的になれる効果があるようです。「今まで諦めていたことをやりたいと思うようになった」という声や、3ヶ月後に控えたお孫さんの結婚式のために、お化粧品をご自身で揃えて練習を始められた方もいらっしゃったりと、さまざまな効果が表れています。
高齢になられると日常の中ですべきことが減ってくるので、テレビを見て1日を過ごされるような方も多く、必ずしも美容に興味のある方ばかりは参加されるわけではないんですね。実際、イベントでは毎回アンケートを取るのですが、美容に対して積極的な方は男女混合でも30パーセントくらいしかいらっしゃらないんです。「10年前だったら興味があった」とか、「興味はあるけど施設ではできないと思っている」とか、後ろ向きなお答えをされる方もいらっしゃるんですけれども、イベントが終わると大体80パーセントくらいの方が「今後も続けたい」「続けられそう」とおっしゃってくださいます。中には「孫に教えたい」「妹も今度一緒に参加させたい」などの声も上がっていて、日常の中で新しいことに興味が湧くエッセンスの一つになっているのではないかと考えております。
また先程も少しお話ししましたが、リハビリに見えないリハビリのようなものを目指しておりまして、医師や作業療法士さん、理学療法士さんなどの医療現場の方々の知見もいただきながら、美容の動作とリハビリの要素を組み合わられないか模索中です。
福岡市と組むことのメリットを活かす
石丸:これまでの「福岡100ラボ」では官民連携事業を進めてまいりましたが、桝田さんは振り返ってみていかがですか?
桝田:福岡市に限らず、高齢化は全国が抱えている課題ですが、行政と民間企業がここまで協力して、プロジェクトまで立ち上げてやっておられる行政団体さんは本当に数えるくらいしかいないのではないかという印象です。そこに入らせていただいて、認知症に対する課題をPRする機会を与えていただけたのはありがたいことですし、セミナーでもたくさんの方々とお会いすることができました。今後のプロジェクトの推進に関しては、今は各社がそれぞれやっているという状況なので、もっと一緒になってできる取り組みがあれば、より強力なメッセージになるのかなと。課題というよりは、どんな新しいことができるかという楽しみの方が大きいですね。
石丸:笠さんはいかがでしたか?
笠:今回の公募では、働き世代の不健康がユース世代にも悪い連鎖を生んでいるという状況がある中、お支払い能力がないユース世代を受益者にするためには、事業性の高いものではなく公益性の高い事業が必要だと考えました。1ヶ月間の取り組みではありましたが、福岡市さんと綿密な打ち合わせをさせていただき、非営利ながら公的立場ではない私たちが、公的な立場の方々とご一緒するにあたっての留意点なども学ばせていただきました。やはり圧倒的に影響力が大きいと思ったのは周知の部分ですね。Instagramのフォロワー数もグッと増えましたし、当事者のユース世代だけでなく、大人の方々にも、ユース世代がこんなに健康に関心があるのに情報を手にできていない状況なんだということを知っていただけたかなと思っています。
石丸:内野さんはソーシャルスタートアップ成長支援事業での取り組みでしたが、どんなことを感じられましたか?
内野:介護美容というものは基本的にスモールビジネスなので、個々で動いているケースが多いんですね。自分自身も動いている中で、目の前の美容以上の効果は見出しているのに、なかなかそれを広めたり深掘りするリソースがないなと思っていました。それが今回、ソーシャルスタートアップ成長支援事業に応募するきっかけになったんですけれども、やはり福岡市さんとご一緒させていただくことで、こうして「福岡100ラボ」のイベントにも立ち会わせていただけましたし、大学さんや自身が連携している施設さんにもより深いお話ができるようになったなと思います。弊社のような小さいスタートアップ企業でも、保証のようなものが生まれたのかなと感じています。
石丸:みなさんから福岡市と組むことによるメリット的なお話が出てきていますが、福岡市福祉局長の藤本さんはいかがですか?
藤本:私たちに保証力がどれくらいあるかはわかりませんが、創業支援などをしている中でも、福岡市が入ることで信用度が上がったというようなお話はよく聞くところです。そう言っていただけるのはありがたいですし、どんどん使っていただければと思います。また非営利団体の方との共同ということに関しても結構長い歴史を持っておりますので、市の職員のノウハウも上がってきているのかなと、笠さんのお話を嬉しく聞いておりました。
桝田さんには行政と民間がここまで組むのは珍しいと言っていただけましたが、東京の企業の方などが来られると、「福岡市の職員さんって敷居が低いですね」とおっしゃられるんですよ。基本的に福岡は民間中心の商人のまちなので、民間がどんどん先導して、それを我々がお手伝いするというような雰囲気がまちの文化としてあるのかなと思っています。みなさんにお褒めいただいたので、これからもしっかり頑張りたいと思います。
多様な相談の場と形式が必要
石丸:逆に困られたことなどはなかったですか?
桝田:さっきの話ともつながるのですが、セミナーやハンドブック制作を一通りやってきて、今後どう進めていくかというところは、実は本当に困っていたところです。なので今回ワーキンググループが立ち上がって、少し前に進めた状況なのかなと。
藤本:共同事業をやっていると、最初に思っていたところと違ってくることも多々あるんですよ。一人だと方針を変えやすいんですけど、複数が関わっていると変に責任の押し付け合いになったりしがちなんですね。ですので今回のリニューアルは仕切り直しの意味もあるかなと思います。より幅広いプレイヤーさんの知見も取り入れられますし、状況を見ながら一緒に進めていけるといいですね。
石丸:それぞれのスピード感やスタートラインが違うので、そこをどう合わせていくかは共同事業の難しいところですよね。今回、ミートアップとワーキンググループを立ち上げることで対話の場がより強調されて、すり合わせも深くできるようになると思いますし、色んなものを後から付与したり、方向転換も比較的柔軟にできるようになるはずです。笠さんは今進めているユース事業に対して、この新しい枠組みをどう活用したいと思いますか?
笠:今回の事業でわかったのは、ユース世代の健康課題というのは、なんら大人の健康課題と変わらないということです。かつ、ユースにも色んな社会課題を感じている方がたくさんいらっしゃって、働き世代よりも多様化・複雑化した課題をお持ちだなという印象を受けました。
前年度は若年層の女性をターゲットにしましたが、そこだけに絞ってしまうとなかなか全部の課題を拾いきれないのと、性を分けるということさえも難しい時代になってきていますので、より幅広い層の相談を受けられるようにしなければと感じました。同時に、多様な相談形式も必要だと思っています。そのため今年度は、かかりつけのナースではなく、先輩ユースの方に話を聞いていただく窓口形式も取りつつ、オンラインだけでなくリアルな相談の場を設けていくチャレンジを行っております。
ただその際にもやはり、どう周知するかという問題が出てきます。あと色んな相談窓口はあっても、一括して相談できる場所がないということも課題だと思います。ユース世代でも相談しやすい時間帯で、相談しやすい形式で、「心とカラダに困ったらウェルサポだよ」と思ってもらえる形をつくるために、実際に支援を行っているユース団体さんと組むことで、より一層心とカラダの健康に対するフォローを手厚くしていきたいと考えております。そういった意味では、取りまとめをしていただける行政の窓口があればすごくありがたいですね。ユースの困りごとを受け付ける全国的な組織もありはするのですが、やはりリアルな解決が必要になってくると思いますので、福岡市ならではのプラットフォーム的なものがあるとよりいいのかなと感じています。
藤本:若い世代は縦割りの隙間に入ってしまう部分が多いのと、若い方にとっては市役所が一番苦手な届け先だったりもするので、NPOのみなさんの力というのは本当にすごいなと思います。こども未来局などとも連携しながら、しっかりと各所をつないでいけたらと思っています。
幅広い共創仲間とつながりたい
石丸:桝田さんはどんな共創仲間とつながりたいと思いますか?
桝田:我々の元々の事業内容は財産管理で、今回のワーキンググループに西日本シティ銀行さまと福岡銀行さまに入っていただいていることからもわかる通り、圧倒的に親和性が高いのは金融関連の企業さまです。今200社ほどの提携企業がありますが、業界で分けるとやはり金融が割合としては高い状況です。ただ普段の生活の中では、高齢者の方々も金融機関に限らず色んな関わりがあるでしょうし、親御さんだけではなく、お子さん世代の問題にも目を向けていかなければいけませんので、業界にとらわれず、社会課題に目を向けていらっしゃる企業さまと広くつながっていきたいと思っています。先程お話が出たユース世代のように、若年層に関してはちょっとかけ離れすぎているので、そこの業態となるとなかなか結びつきづらいのかもしれませんが……。
石丸:ただ成年後見のような話になると途端に変わってきますよね。またどういう暮らしをしていくかという観点で、そこにまつわるサービスのあり方まで考えていくと、すごく広がってくるような気はします。
桝田:そうですね。自社のサービス以外にどれだけ幅広いものを提供できるかということを意識して活動しておられる企業さまも非常に増えてきていますので、そういったところとうまく連携できたらいいかなと思っています。
藤本:「最期まで自分らしく」というのがファミトラさんの事業の一つのテーマにもなっていますが、財産を使わずしてお子さんに渡すのではなく、もっと使ってもらうというのも一つなのかなと。ご本人にとってはその方がいいのかもしれない。そういう観点でいくと、高齢者がお金を使いたいと思えるようなサービスを生み出すために、色んな業種の方にどんどんアプローチしていただくのもいいのかなと思います。
石丸:内野さんはどんな共創仲間とつながりたいですか?
内野:弊社としては2軸あると思っています。まず一つが研究面です。今行っているセルフ美容の事業に対して、私たちがいくつか見出している効果があるんですね。例えば要介護度4で、昼間はずっと寝ておられるような方が、イベントの最後にむくっと起き上がってアロマの香りを嗅ぎに来られたり、ADL値が低下していて施設でも心配されているような方が、明朗快活な状態になって帰っていかれたり。私たちの知識だけでは推し量れない部分がありますので、そこに興味を持ってくださる研究機関や医療機関があったら嬉しいなと思っています。
もう一つが、先程もチラッとお話ししたんですけれども、私たちのサービスは対高齢者のものが多いにも関わらず、同じくらい介護従事者さんやご家族からの反響があるんですね。理由としては、高齢者の方だけに対してつくり込んでいるのではなく、例えば30代の私が実施しても同じように効果が出るプログラムにしているからです。美容には身体機能の回復やストレスケアにつながる効果もありますので、むしろ一緒に参加されている介護従事者さんやご家族の方が盛り上がるようなこともあります。「こういうケアをしたいけど何を使ったらいいですか?」みたいなご質問が殺到したり、「すごく楽しかったから今度はヘアケアをやりたいです!」というようなお声が上がったり。
現場で新しいアイデアが生まれたり、普段の業務とは違う楽しみを介護従事者さんやご家族に見つけていただけると、私たちもすごく嬉しいですし、その場の楽しみだけの話ではなく、ストレスケアやホリスティック的なケアにもつなかっているのではないかと考えております。そういった部分に着目して、一緒にサービスをつくってくださるような医療機関や事業者さんとつながれたらいいなと思っています。
藤本:認知症が進んでも、感情は一番機能が衰えないと言われています。特にアロマなどは直接訴えかける力が強いですよね。また、若い頃に好きだったことやずっと取り組んでいたことは高齢者を元気にするので、昔、美容が好きだったというような方にも効果があると思います。若い頃の楽しかった経験を高齢者の方にうまく提供できれば、ビジネスとしても回るし、高齢者の生活の質の向上にも繋がっていきますので、これからの展開が楽しみだなと感じました。
石丸:支援者側の視点としてはいかがでしょうか?
藤本:今、介護現場はかなり疲弊していて、支援者単体だとなかなか難しいこともあると思いますので、高齢者と一緒に取り組むことで両方とも元気になれるという構造はとても意味があると思います。施設の中では事務的な会話しかしないことも多いと思いますので、他の人が入ってきたり他のテーマがあることによって初めて生まれるコミュニケーションもあるのではないでしょうか。色んなソリューションを投げ込んでいただくことによって、大変な現場でもみんなが幸せになれるんじゃないかなと思います。
フラットで継続的なプラットフォームに
石丸:新たな共創プラットフォームにおいて、みなさんはどのような関わりを求めますか?
桝田:我々は常に「家族信託をあたりまえに」というビジョンを持っています。後見制度などもある中、何が何でも家族信託だというよりは、選択肢の一つとして当たり前に家族信託を認識していただきたい。そのためには、こういう制度もあるんだということをまずは知っていただくことが大前提です。今回、ワーキンググループの中で行員の方々に向けたセミナーをさせていただきますが、市民が財産管理に不安を持った時にどこに相談をするかというと、やはり一番近くにあるのは銀行なんですよね。行員の方々の影響力というのは非常に大きいので、そこに対して情報提供することは大事な一歩なのかなと思います。
笠:今日はユース事業のお話を中心にさせていただきましたが、弊団体では、働き世代を中心にサポートすることが、その親世代と子世代の健やかな暮らしをサポートすることにもつながると考えています。働き世代がいかに健康的に働くかを考えた時、例えば親の終活や子どもの発達の悩みによって心身のバランスを崩している場合には、これらの要因を同時に解決する必要があります。私たちができるのは看護ケアの部分ですので、さまざまな社会資源とつながりながらアテンドしていくことが重要になると思います。情報の共有はもちろん、安心しておつなぎできる場所があるととてもいいですし、意見交換をフラットに継続的にやっていけるネットワークが生まれることを期待しています。
内野:弊社としては、個で動いている人や地域や施設が、手を挙げたり集えるようなきっかけになれば嬉しいなと思います。実際、ソーシャルスタートアップ成長支援事業に選んでいただいたことによって、他の地域から一緒に活動したいというご連絡をいただくケースが結構ありました。福岡市をモデルにされている方は各都市にいらっしゃると思うので、そういった方々が、自分ができることに対して手を挙げ、思っていることや知見をシェアして、そこから今回のようなプロジェクトが生まれていけばいいなと思っています。
石丸:藤本さんは行政としてどんなことを期待しますか?
藤本:みなさんがおっしゃったように、バラバラに動いている個をつないで大きな動きにしていったり、ここからここはお願いねとバトンタッチできるような仕組みをつくっていけたらいいですね。情報共有とか連携とか言ってはいますが、市には色んな相談が来て色んな制度もあるので、一つのテーマに対して実質的につながって、バトンを渡せるような関係を築ける場があるのというのは、すごくありがたいことです。またそういう場に若手の職員が参加するのも勉強になっていいと思います。やはりまだまだ市役所は紋切り型で、中にいるとどうしても外の視点というものがわからなくなりがちですので、全然違う角度からの話を聞いたり、市役所の常識を外の人に話すことによって、新たな発見や本質に出会えるのではないかと思います。そういった意味でも、市の職員も入ったワーキンググループで色んなことが起こっていくといいなと思っています。
石丸:市民の方々もフラットに参加できて、色んな問題を顕在化させて実装につなげていくようなコミュニティになればいいですね。みなさま、本日はありがとうございました。
登壇者プロフィール
桝田 哲史 / 株式会社ファミトラ アライアンス本部 第2グループ グループ長
【事業名】エイジングリテラシー向上プロジェクト
【事業概要】何歳になっても自分らしい生き方を選択できるまちづくりに向けた第一歩として、福岡市、福岡市社会福祉協議会、東京海上日動火災保険株式会社、株式会社ファミトラが連携し、加齢による認知機能低下、金銭管理等の課題、事前の準備(親の状況や希望等の確認)の必要性などを伝えるコンテンツ提供と、企業を巻き込んだ啓発を行う事で、家族であっても話しにくい「ありたい姿」「幸せ」などの話ができる、まち全体の雰囲気づくりを行う。
参考:https://f-100lab.jp/infomation/1294/
笠 淑美 / 一般財団法人ウェルネスサポートLab代表理事
【事業名】若年女性に向けたコンテンツを発信!
【事業概要】若年層の女性の健康課題の解決に向け、「運動」について正しい知識を啓発し、運動習慣の改善および定着を図るきっかけとするため、Instagramアカウント『MeCare(ミーケア)』でのライブを交え情報発信を実施。
参考:https://f-100lab.jp/infomation/1343/
内野 仁美 / 株式会社ウェルネスエキスパート代表取締役
【事業名】「高齢者向けセルフ美容」で年齢を重ねても生きがいを感じる社会にしたい!【事業概要】美容活動による高齢者向けフレイル予防、認知症の予防・緩和。日常的に習慣化できる老化予防のアクティビティの創出。「嗜好」ではなく根拠ある「当たり前」の選択肢とするため科学的なエビデンス取得と実装に取り組む。
参考:https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/r-support/business/socialhojyokinn-bosyu.html
藤本 広一 / 福岡市役所 福祉局長
熊本生まれ、横浜市~愛知県長久手市育ち。福岡市役所ではロボカップやサイバー大学の誘致、基本計画策定、創業特区、スタートアップカフェ立ち上げなどに携わる。2017年4月より、防災・危機管理部で防災の計画や広域協力に取り組む。熊本地震の際は大名小学校での物資受け入れを担当した。個人の活動では、旅をキーワードに九州を遊ぶ、九州エンパワーメント研究会を主宰。
石丸 修平 / 福岡100ラボ事務局(福岡地域戦略推進協議会) 事務局長
経済産業省、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)等を経て、2015年4月より福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局長。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、九州大学科学技術イノベーション政策教育研究センター(CSTIPS)客員教授、九州大学地域政策デザインスクール理事、Future Center Alliance Japan(FCAJ)理事、九州経済連合会規制改革推進部会長等を歴任。中央省庁や地方自治体の委員など公職も多数務める。著書に「超成長都市「福岡」の秘密 世界が注目するイノベーションの仕組み(日本経済新聞出版)」。2021年10月、世界経済フォーラムと国際官民連携ネットワークによるAgile 50(公共部門においてイノベーションを推進し、世界からガバナンスに変革を起こしているリーダー)として、「破壊的変革を導く世界で最も影響力のある50人」に選出される。