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人生100年時代に向けた未来のまちづくりプロジェクト「福岡100」に関心のある企業や行政、関連団体のために設けられた交流の場「福岡100ラボmeet up!」。第6回では、地域の中で人々がつながる仕組みづくりをテーマに、企業として何ができるのかについて意見が交わされました。
〈登壇者一覧〉
・福岡市社会福祉協議会 終活サポートセンター 所長 吉田 時成 氏
・株式会社ダイキョープラザ ダイキョーバリュー弥永店 副店長 中村 健一 氏
・エデュポルテ株式会社 有馬 友美 氏
・福岡市福祉局 地域福祉課長 久田 惣介 氏
・モデレーター 福岡100ラボ事務局(福岡地域戦略推進協議会)片田江 由佳
(目次)
誰もが孤立する可能性がある
福祉活動にICTを取り入れる
スーパー発信で地域密着型のイベントを
社会全体で子どもたちを育てる
色んな層が重なり合うことが重要
それぞれの強みを活かしたつながり方
誰もが孤立する可能性がある
福岡市福祉局 久田(以下 久田):登壇者のみなさんに具体的な事例をご紹介いただく前に、今回のテーマについて、私から大枠のお話をしたいと思います。福岡市における高齢者の単独世帯数の推移を見てみると、例えば2000年だと65歳以上の単独世帯が3万7000世帯、そのうち1万6000世帯が75歳以上でしたが、令和7年には65歳以上の単独世帯が11万9000世帯、うち7万4000世帯が75歳以上と推計されています。昭和60年には65歳以上の単独世帯が1万2000世帯ほどしかなく、その頃と今を比べると10倍くらいに増えていて、高齢化が進んでいることと、住まい方が変わってきていることの2つの軸で単身化が進み、さまざまな問題が出てきているのかなと思います。
今の福祉課題は多岐にわたっているので、なかなか行政だけ、民間だけでの解決が難しいのが現状です。日頃の買い物やちょっとした手続きなどのサポートも含めて、かつては家族や人間関係の中で解決できていたことを相談できない人が増え、地域の中でのつながりが重視されるようになってきました。
こうした中で、多様性を認め合うといった理念的なところから、お互いを気にかけるという関係性、社会参加につながる活躍の場づくり、就労や生活における民間企業の支援など、さまざまなポイントで「地域共生社会」という言葉がスローガンとして掲げられるようになりました。
「孤独」は1日に15本タバコを吸うのと同じくらい健康を害するとの説が話題となりました。ちょっと外に出て喋るだけでも介護予防の効果が期待されますし、地域とのつながりを持っていれば何か異変があった時にも気づいてもらえます。そうした助けを得ることで、生活全般にさまざまな効果が生まれるのではないかと思っています。
ご登壇者のみなさんのような民間企業の皆様には、日々顧客と接するからこそ見える部分があると考えています。今、さまざまな領域で民間サービスが提供されており、それぞれのサービスの中で人と人との関わりが生まれています。例えば、美容師が自宅に来て髪を切ってくれる訪問美容のサービスでは、美容師と利用者との関わりが生まれるだけでなく、髪を切ることで外出する意欲がわくなど、福祉的な効果も期待できます。自社商品やサービスを通して地域住民の状況を深く捉えていらっしゃる企業の視点をお借りすることは、私ども行政としても非常に助けになります。
では最後に、私どもが取り組んでいる「見守りダイヤル」の事例をご紹介します。「見守りダイヤル」とは、孤立死の疑いがある場合、24時間体制で通報を受けて安否確認を行う取り組みなのですが、対応されているNPOの方から、ほんの数ヶ月前は元気だった方が、奥さまが亡くなられたのを境に認知症が進み始め、ゴミの捨て方などもわからなくなってしまった話を聞きました。それで家の中の環境が悪くなって、人が訪ねて来ても居留守を使うようになり、あっという間に孤立死が疑われる状況になってしまったんですね。このように、誰もが孤立する可能性があるということを踏まえて、今日はご登壇者のみなさんからお話を伺えればと思います。
福祉活動にICTを取り入れる
福岡市社会福祉協議会 吉田(以下 吉田):私たち福岡市社協は、福岡から日本の社会課題を解決するべく、「誰もがその人らしく安心して暮らせる福祉のまちづくり」を目指して活動しています。今回のテーマに関連する取り組みとしては、地域の民生委員やボランティアが高齢者や子育て世帯等を見守る「ふれあいネットワーク」、高齢者が集まって体操やレクリエーションを行う等、地域住民の交流の場「ふれあいサロン」、高齢者の終活を支援する「終活サポートセンター」などの活動がございます。
今日詳しくご紹介したいのが、ICTを活用した孤独・孤立の支援についてです。この取り組みの発端はコロナで、これまで主に対面で行われていた見守りや交流などの福祉活動が、一時期完全にストップしてしまったんですね。代替案として手紙でのやり取りなども実施していたのですが、学校や企業でもオンラインの運用が増えてきたため、私たちの活動にもICTを取り入れられないかということで、アプリの開発に踏み切りました。 先程、久田課長から「孤独は1日15本のタバコに相当する」というお話があったように、孤独・孤立によって、要介護2以上になるリスクや認知症発症のリスク、死亡リスクが軒並み上がります。ここで言う「孤独」と「孤立」は主観と客観の違いによるもので、主観的に孤独感を感じることが「孤独」、客観的に見て社会とのつながりがない状態が「孤立」です。コロナ禍で、こうした孤独や孤立がどんどん深まっていきました。
地域活動者の方々からは、「これまで関わりのあった高齢者がどのように過ごされているか心配」「会えなくなって寂しい」といった声が上がり、高齢者の方々からも「早く『ふれあいサロン』でみんなに会いたい」といったお電話やお手紙をいただきました。そこで私たちは、ふれあいを守り、孤独感を解消し、いきいきと話せる場をつくり、コロナ禍の活動を豊かにするため、福祉とICTを掛け合わせることに着目しました。
IoTを活用した見守りセンサーなどは商品としてたくさん出ているんですけども、こういったものはコミュニケーションを媒介しないんですね。孤独・孤立の解消には他の人とつながることが重要ですので、ICTを活用することでコミュニケーションを高めたいと考えました。またICTを導入することで、見守りのためにエレベーターのない公営住宅の5階まで階段で上るというような物理的な面も効率化できます。
じゃあLINEなどのビデオ通話アプリを使えばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、多くの高齢者はパソコンやスマホの操作が苦手です。ガラケーを使っておられる方も多いですし、スマホをお持ちでも、アプリを設定したり、LINE画面のどのボタンを押したらいいかわからなかったり、使い方を忘れてしまうこともあります。そこで、高齢者でも簡単に使える独自のコミュニケーションアプリ「スグニー」を開発しました。
このアプリは機能を2つに絞っているのが特徴で、1つはビデオ通話、もう1つが画像・メッセージの閲覧です。操作方法は1回タップするだけの簡単なつくりになっていて、SNSのように「いいね」ボタンも押せるようにして、簡易的な安否確認ツールとしても利用できるようにしました。
トライアルとしてコロナ禍で運用した際には、ビデオ通話の他、福岡の昔の写真をみなさんに送って見ていただいたりもしました。一般的に、高齢者は最近の記憶よりも昔の方が鮮明に思い出せると言われていますので、みんなで昔の風景を共有することで、「40年前の天神はこんな感じだったんだ」「路面電車があったんだね」という感じで会話が弾むんですよね。使用者の反応としては、「顔が見えるので安心できた」「マスクを外して話せるので相手の表情が見えて自然と笑顔になった」といった声をいただきました。また手話や筆談をする方にとっても使いやすいツールだったようです。
地域での見守り・交流だけでなく、自宅でお医者さんとつながってオンライン診療が受けられる取組みも進めており、さらに活用の幅を広げていきたいと思っています。先程お話しした「終活サポート」に対しても有効だと考えていまして、契約者の中にはまだまだ元気な方もいらっしゃいますので、見守り目的でご自宅に訪問するのを嫌がられる場合もあるんですね。そこにオンラインという新しい手法を取り入れることで、お互いに負担のない形での運用が実現できるのではないかと思っています。「スグニー」は厚生労働省の「身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題に対応するためのモデル事業」にも申請中でして、資料には「採択」と書いてしまいましたが(笑)、そのくらいの気概で進めております。
アプリだけの話だと狭い領域になりますが、もう少し広い視点でまとめると、今後は福祉の業界でも、従来の手法にICTをプラスして新しいコミュニケーションを生み出していくことが必要だということです。ただ、高齢者の家にはWi-Fiがなかったり、スマホをお持ちでない方もいらっしゃいますので、まずはインフラ環境を整備して、通信事業者が行っている使い方講座などとも連携しながら、高齢者のデジタルリテラシーを高めていくことが重要です。福祉のことは福祉の人がやればいいという時代ではもうなくて、さまざまな分野がうまく絡むことで、新たな一歩を踏み出せるのではないかと思っています。
スーパー発信で地域密着型のイベントを
株式会社ダイキョープラザ 中村(以下 中村):私どもは創業46年の中小スーパーで、昔ながらの携帯でやらせていただいております。その中の1店舗の弥永店では、店頭にテント付きの広場を設け、定期的にイベントを開催しています。 弥永校区は南区の中でも高齢者が多い地域で、ひとり暮らしの方もたくさんいらっしゃいますので、地域住民の交流の場として、弥永校区の社会福祉協議会、自治協議会、ボランティアの方々と一緒に「ほほえみカフェ」の運営のお手伝いをさせて頂いております。月1回、主に第2金曜日の9時半〜12時の開催で、飲み物を無料で提供したり、色々なご相談を受けたり、健康チェックやラジオ体操なども行っております。毎回150〜200名ほどの方にお越しいただいています。
その中で、高齢者のご家族や介護施設の方からよくご相談をいただくのが認知症についてです。うちの店でも、1日に4回もお買い物に来られるような方がいらっしゃいます。しかも4回とも全く同じものを買われるので、冷蔵庫に同じ商品が溜まっていくんですよね。ですので、そういった方をレジで見かけたら、お声がけなどの対応をさせていただくようにしています。
その他にも、弥永小学校の社会科学習の一環として、子どもたちにお店に来ていただき、どんな形でスーパーが運営されているか、どういう品物がどのくらいあるのかなどの質問を受けたり、福岡農業高校からインターンシップを受け入れて、惣菜コーナーや系列店のお手伝いをしていただきながら、色んな形で社会を勉強できる場を提供しています。日佐中学校の吹奏楽部の演奏会も行っており、ご家族の方もいらっしゃるので、そこで新しいコミュニティが生まれたりもしています。
今後は福岡病院との連携も計画していまして、地域の方の健康を見守るために、呼吸器科の先生に来ていただいて検査をしたり、早急な対応や処置ができるような取り組みを始めようとしております。
社会全体で子どもたちを育てる
エデュポルテ株式会社 有馬(以下 有馬):今、ダイキョーさんから地域の学校との取り組みのお話がありましたが、弊社は子どもたちを中心につながりをつくっていくという取り組みを行っておりまして、「教育のとびらをひらき、教育を通じた善の循環を起こす」というビジョンのもと活動しています。
2023年12月に設立したばかりの会社で、メンバーは3名です。代表は小学校の教師として15年間働いた経歴を持ち、学校現場が抱える問題や地域とつながる難しさ、それらが子どもたちに与える影響について課題を感じ、ビジネスとして外側から現状を変えていきたいという思いでエデュポルテを設立しました。2人目のメンバーである私は、実は5月まで福岡市役所の職員でして、スタートアップ支援にも取り組んでいた関係で参画しました。3人目は現在シアトルのシンクタンクに勤めており、いずれは自分で寺子屋をつくりたいという野望を持ったメンバーです。
そんな我々の観点から、地域の中でみんながつながる社会がなぜ必要なのかについてお話ししたいと思います。
みなさんは「13%」と聞いて何をイメージしますか?これは、日本の将来がよくなると思う子どもの割合です。こんなに少ないのかと私はショックを受けました。この数字の背景には子どもたちの現状があり、いじめの認知件数は約68万件と、過去最多の数になっています。不登校者数も年々増えていまして、前年比でプラス5.4万人と、子どもを取り巻く環境は悪化していると言わざるを得ない状況になっています。
さらにその背景には先生たちの大変さが間違いなくあると思っていまして、小学校の先生の月平均の残業時間は82時間です。中にはそのくらい残業している人がいるということではなく、持ち帰りも含めて、みなさんの残業時間を平均するとこの数字になるということです。さらに3年以内の離職・転職を検討する方はなんと6割以上。この数字も衝撃的です。
子どもの笑顔を守るためには、まず先生を笑顔にすることが必要です。そこで私たちが考えたのは、先生の心と体に余白をつくること。ただ、先生の数を増やすのは、いち企業の力ではどうにもならない部分もあるので、代わりに学校の仲間を増やして、地域の中のつながりをつくっていくのはどうかと考えました。
私たちが目指すのは、子どもの学びを社会全体が当たり前に支える社会です。福岡市内には小学校が140校、中学校が70校あります。市内のいたるところにある学校に対して、周辺の事業者や地域社会、高校や大学などの専門機関、保護者の方々などが、もっともっと関わっていけるような仕組みづくりが必要だと思っています。ただ、それがスポットでのような関わり方だと「やってあげる」というような他人事の意識になってしまうので、学校の教育は学校の先生がやるということではなく、社会全体で子どもたちを育てることが必要だという自分事の意識に変えていきたいと考えています。
私たちが提供するサービスを簡単にご説明すると、コミュニティづくりをしながら、学校と企業、学校と地域などをマッチングさせ、長期的で実行性のある共働プログラムを開発します。さらにはフラットに話せる場づくりとして、SNSを活用し、オンライン・オフラインを組み合わせたサロンの運営なども行っています。
学校はとても魅力のある場所です。というのも、福岡だけでも23万人の子どもと60万人の保護者がいらっしゃるので、地域の方々や企業が学校に関わることで、それだけの人数に情報を訴求することができるからです。学校は敷地が広く、音楽室や視聴覚室などもあり、最近はICT化もかなり進んでいます。学校というフィールドを使うことで、ファンづくりやブランディング、地域社会の担い手育成など、さまざまなプログラムが実施できます。子ども向けのプログラムを企画したとしても、どうしても情報にたどり着けないご家庭が出てくるものですが、お子さんが通っている学校であれば、直接情報を届けることができますよね。このように、学校をハブにするという手法はとても有効だと思います。
ここで一つの好事例をご紹介します。六本松にある蔦屋書店さんとのコラボ企画で、本屋さんが子どもたちに宿題を提供するプロジェクトを行いました。
お店で掲示するPOPを子どもたちが作成するというのが宿題の内容で、リアルな現場で人の行動を促すにはどうすればいいか、自分たちで考えながら作成してくれました。さらに裏では学校の先生の業務改善にもつながりまして、何の宿題を出すかを考えて、クラス35人分の内容をチェックして返すという業務を削減することができました。単純に読書感想文を提出して先生に採点してもらうのではなく、自分のつくったものが実際に売り場にあるということが子どもたちにとってもすごく嬉しかったようで、貴重な体験を提供できました。書店での本の売れ行きもいつもより好調だったそうです。
では今進行中のプロジェクトを3つご紹介します。1つが「博士のたねまきプロジェクト」です。学校と大学と企業が連携し、大学の先生や企業の専門家、技術の匠など、自分の道を極めた方々(=博士)が子ども向けのワークショップを提供するというものです。このプロジェクトによって、最終的に博士号を取得するような子どもたちが増えたり、将来の選択肢が広がるきっかけを与えられたらいいなと思っています。
2つ目が、学校と農家と地域が連携したプロジェクトです。早良区の南部に休校になっている学校がありまして、その跡地の活用も視野に入れながら、周辺のダムの整備であったり、子どもたちを巻き込んで実地でのリアルな体験を行います。また農家さんと一緒に農地体験をして、地元の商業施設と提携したマルシェの展開なども検討しています。
3つ目が学校と商店街とアートを絡めたプロジェクトで、まちをフル活用したカリキュラムの開発を考えています。
このように、学校と企業や地域などが深くつながることで、子どもたちの学びを支えていく社会をつくれたらいいなと思っています。地域の中でつながることが未来をつくることにつながり、そこからいい循環が生まれていくのではないかと思います。
色んな層が重なり合うことが重要
モデレーター 片田江(以下 片田江):みなさんありがとうございました。事例を聞いて、久田課長はどう思われましたか?
久田:福岡市社協さんは普段、私どものパートナーとして一緒に色々な取り組みをさせていただいておりますけども、今回の「スグニー」のようにオンラインでつなぐお話も、日々抱えている課題に対してうまくICTを活用できないかと真摯に考えた結果、生まれたアイデアなんだろうなと思いながら聞いておりました。
ダイキョーさんはお店に行かせていただいたことがありますが、すごく雰囲気がよくて、音楽もレトロで、ちょっとした商店街に来たような気分になるんですよね。スーパーって回転がよくなった方が儲かるイメージがありますが、ダイキョーさんは買い物だけじゃなく、地域の方が居心地よく過ごせて、交流を楽しんでいただけるような場づくりも使命だと感じていらっしゃるんだろうなと思いました。ちなみにダイキョーさんにはネパール人の店員さんがいらっしゃって、自国のカレーを地域の方にふるまっているのがテレビでも紹介されたそうで、これは外国の方との共生にもつながる話ではと感じ、すごいなと思いました。
エデュポルテさんの取り組みも素晴らしいですね。子どもの力というのはすごいと思っていて、私も福岡市社協さんとの取り組みで、子ども食堂などの食を通じた交流に関わらせていただくんですけども、そこにご高齢の方もいらっしゃると、直接喋らなくても、ただ近くで子どもが遊んでいるだけでいい雰囲気になるんですよね。子どもや教育という部分を深めて、そこからうまく取り組みが広がっていくというのは、すごくいい発想だなと思います。
片田江:さまざまなつながりの場をつくるため、みなさんはどんなことを大切にされていますか?
中村:創業者の思いである「すべてはお客様の為に」というモットーで従業員一同お客さまに接しておりますので、お客さまのために何ができるかという観点が発想のもとになっていますね。どうやったら地域の方々と一緒に活動ができるか、その点だけを重視して取り組んでおります。そのためには現状の課題を把握することが必要ですので、地域のイベントや会合に積極的に参加したり、社協や周辺の学校のネットワークなどもうまく活用しながら、幅広く情報収集をするように心がけています。
有馬:つながりって大きく2つに分かれると思っていて、学校や教育分野に関心のある層に対しては、SNSを活用してちょこちょこ情報発信するなど、お互いにやり取りができる状況をつくりながら、層の輪を大きくしていこうとしています。コミュニティというものは動かし続けておかないと意識の中から外れてしまうので、地道ながらも続けていくことが一番大事かなと思っています。もう1つ、学校や教育分野が大事なことはわかっているけど、自分とは関係ないと思っている層へのアプローチも重要で、直接足を運んで会いに行ったり、こういったイベントでお話しさせていただいたり、ネットワーキングにも積極的に参加して、一緒に活動してくれる仲間を探していることをアピールしています。この両軸を揃えた上で、学校の中の人と外の人をつなげて、課題解決のための大きなコミュニティをつくっていきたいなと思っています。
片田江:すごく共通点のあるお話ですね。継続的に幅広い仲間づくりをされていて、「つながりをつくるためのつながり」を築くことの重要さがよくわかりました。福祉の現場にいらっしゃる吉田所長は、こうしたつながりを支えていく上でどんなことが重要だと思いますか?
吉田:つながりって色んなパターンがあると思うんですね。特にイメージしやすいのは、血縁関係や地域での支援、会社組織など。ただ、今の時代はそれぞれが弱くなっている印象はあるかもしれませんが。ダイキョーさんやエデュポルテさんがつくるような場もありますし、自分の趣味や好きなもの、SNSを起点に生まれるコミュニティのような新しいつながりもありますよね。そのどれか1つがいいというわけではなくて、色んな層で重なり合って、色んなところでつながりができることが大事だと思います。「地域ではこんな顔をしているけど、会社ではこんな顔をしているんだぞ」みたいな方が、豊かなつながりになるんじゃないかなと思います。
片田江:つながりという言葉はとても大きな概念ですが、捉え方や扱い方として、どんなところに気をつけたらいいと思いますか?
吉田:コミュニケーションが大事というのは先程もお話ししましたが、ダイキョーさんもエデュポルテさんもそれぞれうまくコミュニケーションを取りながら今の関わり方を築かれてきて、その長い過程を経たことがすごく大事なんだと思うんですね。なので、気をつけるべきことは、例えば思いのある企業さんがいざ地域に行って、こういうことをやりますと話をしても、場所によっては企業さんと何かを一緒にやることに慣れていない地域住民の方もいらっしゃると思います。そうなるとなかなか進んでいかないので、私たちや行政など、ある程度中立のところも巻き込んで、コミュニケーションを取れるところからうまく取っていき、そこから深めていくというやり方が大事だと思います。
中村:そうですね。私たちも社協や自治協議会の力がなければ、すぐには動けなかったんじゃないかという思いは正直あります。間に入っていただく方の力を借りながら、そこに自分たちの思いをぶつけていけば、地域の方々もそんなに抵抗はされないのかなと思います。その辺のニュアンスが伝われば、継続的なつながりがつくれるのではないでしょうか。
有馬:私ももともと市の職員という立場だったので、いち民間企業が地域に入り込むことの難しさというのは痛いほどわかります。私たちも、先程お話しした3つのプロジェクトのうち「博士のたねまきプロジェクト」では大学などの組織と連携し、地域の方々に「この人たちと一緒なら安心だ」と思っていただけるような座組にして進めています。
それぞれの強みを活かしたつながり方
片田江:エデュポルテさんは、社会課題の解決に取り組む起業家を応援する「福岡市ソーシャルスタートアップ成長支援事業」の認定企業に選ばれましたが、今後の展望はいかがでしょうか?
有馬:今年度は福岡市の補助金を活用して、先程お話しした3つのプロジェクトを運営していく予定ですが、来年度以降は企業や団体とともにプロジェクトをつくり上げていき、一部協賛金をいただきながら、企業や団体にも利益がある形で運営していく必要があると思っています。今日会場にお越しのみなさんにも、お金がかかる、かからないは置いておいて、自社のプログラムやサービスに対して、学校という場を活用して何かできないかと思っていただけるきっかけになれば嬉しいです。
●福岡市ソーシャルスタートアップ成長支援事業について
片田江:他のみなさんの展望はいかがでしょうか?
中村:南区に弥永団地という市営住宅地がありまして、老朽化で建て替えが進んでいるのですが、そもそも人口が減っていることが大きな要因なんですね。この辺を私たちもかなり深刻な問題と捉えていまして、建て替えが終わるまでにあと5〜6年かかると思うんですけれども、その間にどうやって地域の方々に接していけるかが重要な課題だと考えています。先程お話ししましたように、うちのお店には認知症のお客さまが多く、徘徊される方もいらっしゃるため、4〜5年前から50名ほどのLINEグループをつくって見守り活動を行っているのですが、そういったところもうまく活用しながら、これからもっと地域の方々とのコミュニケーションを深めていく必要があると思っています。
吉田:企業さんとの連携だと、会議室を一部貸し出していただいて子ども食堂を開いたり、プログラミングなど技能がある方のマンパワーをお借りするなど、色々なご協力をいただけるとありがたいと思っています。また私が所属している「終活サポートセンター」に関してですと、身寄りのない方がこれからさらに増えていくと予想されますので、例えば親族がいないと部屋が借りられないとか、変えていくべきところはしっかりと変えていきながら、身寄りがなくても自分らしく当たり前に暮らせる社会をつくっていきたいと思います。
片田江:では最後に、本日のお話を踏まえまして、久田課長の総括をお願いします。
久田:吉田所長から「色んな層で重なり合ってつながることが大事」というお話があったように、今日会場にお越しのみなさんも含め、それぞれの企業ならではのつながり方が考えられるなと思いました。例えば普通の店舗だったら、ダイキョーさんのようにその地域の生活の事情まではなかなか意識されないと思うんですよね。地域のことを深くわかっている地元企業の強みを活かして、さまざまな関わり方をしていくことが素晴らしいなと思いました。
片田江:今回の議論が新しいアクションのヒントになれば幸いです。みなさん、本日はありがとうございました。
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登壇者プロフィール
吉田 時成 / 福岡市社会福祉協議会 終活サポートセンター所長
2016年入職。事業開発担当として「死後事務委任事業」、「居住支援事業」、「社会貢献型空家バンク」等の立ち上げや運営に従事。2022年より現職。身寄りのない高齢者等への支援策として、「見守り・交流アプリ『スグニー』」を実証実験中。
中村 健一 / 株式会社ダイキョープラザ ダイキョーバリュー弥永店 副店長
2002年入社。有店舗宅配の勤務に携わる。2011年より弥永店店舗に入り、経営理念にある「すべてはお客様の為に」をモットーに地域の方々との交流を深めている。
有馬 友美 / エデュポルテ株式会社
2010年、福岡市役所に入庁。こども・福祉分野を経て、企画部門にて公民連携、Wellbeing等を担当。2024年に特区を活用し、教育系スタートアップのエデュポルテに入社。子どもの笑顔のために学校と社会をつなげることに奔走中。
久田 惣介 / 福岡市福祉局 地域福祉課長
2001年、福岡市役所に入庁。若手の時代には生活保護行政などに携わり、近年は福岡市社会福祉協議会と連携して地域福祉の推進に関わるなど、福祉行政に長く従事。
モデレータープロフィール
片田江 由佳 / 福岡地域戦略推進協議会 ディレクター
株式会社産学連携機構九州(アイランドシティ・アーバンデザインセンター)、公益財団法人福岡アジア都市研究所を経て、2020年に独立。都市開発・地方創生・ヘルスケアなどの分野で、市民を中心とした多様な主体の共創を支援。
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