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福岡100ラボmeetup! 第1回『「障がいがある人も活躍できる社会」へアップデート!』イベントレポート
掲載日: 2023/10/27

人生100年時代に向けた未来のまちづくりプロジェクト「福岡100」に関心のある企業や行政、関連団体のために設けられた交流の場「福岡100ラボmeetup!」。第1回目となる『「障がいがある人も活躍できる社会」へアップデート!』が9月6日(水)に開催されました。先進的な取り組みを行う企業をゲストに招き、事業紹介やパネルディスカッションを実施。個性豊かな登壇者たちのさまざまな意見が飛び交いました。


〈登壇者一覧〉
・福岡市役所福祉局 障がい者部 障がい企画課長 西依 正博 氏
・㈱カムラック 代表取締役 賀村 研 氏
・㈱オリィ研究所 事業開発部マネージャー 高垣内 文也 氏
・清水建設㈱ 技術研究所 ロボティックス研究センター 上席研究員 貞清 一浩 氏
・モデレーター 福岡100ラボ事務局(福岡地域戦略推進協議会) 片田江 由佳


目次
●福岡市が取り組む新たな障がい者就労支援
●戦力としての障がい者雇用を実現する
●社会とつながる分身ロボット
●スーツケースで視覚障がい者を導く
●障がい者支援における企業の役割



福岡市が取り組む新たな障がい者就労支援



福岡市役所 西依(以下 西依)
:障がい者の就労には、一般企業などで働く一般就労と、一般就労の難しい方が福祉サービスを受けながら働く福祉的就労があります。一般就労支援の代表例はみなさんご存知のハローワークで、福祉的就労支援は雇用契約の有無などにより、就労移行支援事業のほか、雇用契約の有無などにより、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業のカテゴリーに分かれます。
まず、福岡市の一般就労支援には大きく二つの取り組みがあります。一つは「障がい者就労支援センター」の運営による支援で、もともとの施設と、「発達障がい者支援センター」とともに、を舞鶴の新庁舎に移転・集約し、今年7月に複合施設としてオープンしました。新たに一体化して整備することで、発達障がい者については、乳幼児期から成人期までの就労を含めた支援を目的と強化しています。また、個別支援として、障がいのある方一人ひとりの適正や能力を的確に判断して、本人の希望も含めてアセスメントするとともに、企業への啓発・助言とし、障がい者雇用に向けて、企業訪問して相談・助言やセミナーの開催などをおこなっています。


●福岡市立障がい者就労支援センターについて
http://fc-jigyoudan.org/syuro


もう一つの取り組みは、重度障がい者への一般就労支援です。現在、福岡市の人口は約163万人で、そのうち障がい者手帳をお持ちの方は約8万7,000人いらっしゃいます。内訳は身体障がい者が一番多く、次に精神障がい者、知的障がい者の順になります。身体障がい者の中でも外出が難しい肢体不自由1級の方は約5,000人で、それ以外にもパーキンソン病やALSなど、筋力の低下などで外出困難な方が約2,500人いらっしゃいます。
こうした方々に向けて、福岡市ではICTを活用した重度障がい者の一般就労支援を進めています。重度の障がいや難病などにより外出困難な方が、自宅にいながらICTやIoTを使って働くという実証事業です。昨年度は、今回登壇してくださっているオリィ研究所さんと連携し、同社のプロダクトである遠隔操作の分身ロボット「OriHime」を使って、2か所で実証事業を行いました。


●分身ロボット「OriHime」について
https://orihime.orylab.com/


一つは博多区役所のロビーでフロア案内と展示品の説明をするというものです。もう一つがデイサービスにて高齢者との会話やレクリエーションの補助をするというもので、どちらも実証期間は1ヶ月半です。結果としては、区役所ではやや集客効果はあったものの、周りの視線が気になって会話を楽しめないなどの課題が残りました。一方デイサービスでは、「OriHime」を操作する障がい者(=パイロット)と高齢者の双方から、会話ができて楽しかったという意見を聞くことができ、普段あまり話さない高齢者の口数が増えたり、職員さんの負担軽減につながったりと、高い効果が得られました。今年度は内容をアップデートして、8月から実証事業を進めています。前回は「OriHime」を操作したことのあるパイロットさんに参加していただいたのですが、今回は未経験者でも同様の効果が得られるかを実証するため、市民から公募しました。実施場所は、今回は障がい者施設の商品を販売するアンテナショップに「OriHime」を設置し、店の前を通る人に声かけをして集客を図ったり、接客をして売り上げが上がるかを実証しています。高齢者施設は継続で、新たに軽費老人ホームと有料老人ホームを加えた3か所に増やして行っています。期間はそれぞれ7ヶ月で、長期間で同様の効果が得られるか、さらにもっと効果的な業務があるのかも含めて実証したいと思っています。
福祉的就労支援については、これまで個別に取り組んできた支援を取りまとめ、ワンストップで一体的に行う「障がい者工賃向上支援センター」を昨年10月に開設しました。福祉的就労支援のうち就労継続支援B型は雇用契約を結ばないため、作業の対価は工賃として支払われます。その平均は月額で約1万1,000円とかなり低く、福岡市ではこれを5年で倍増させたいと考えています。現在「OriHime」を設置しているアンテナショップもこの事業の一環となります。


●福岡市障がい者工賃向上支援センターについて
https://tokimekiweb.com/


具体的な内容としては、企業に訪問して業務開拓し、受注・契約を行うとともに、伴走型の障がい者施設のサポートや工賃向上に関するオンラインセミナーなどを通して、受注体制づくりの支援を行っています。



戦力としての障がい者雇用を実現する


株式会社カムラック 賀村(以下 賀村):我々カムラックは、障がい者の就労支援サービスを提供する会社です。具体的には、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、相談支援の4事業になります。今日ここでは「障がい者」と言いますけれども、弊社に所属する障がい者メンバーは一生懸命ものづくりに携わってくれている「社員」であり、大切な「仲間」です。社名の由来は僕の名前である「カムラ」と「ラッキーが来る=Come Luck」ということで、妻が名づけてくれました。自分の名前を社名にするなんて、どれだけ自分が好きなんだって感じですけど、仲間たちの活躍のおかげで、こういった場でも徐々に名前を知っていただけるようになりました。


●カムラックについて
https://www.comeluck.jp/


さて、まず我々が業界初として注目していただいているポイントは、就労継続支援A型の就労環境です。先程西依さんからお話があったB型とは違って、A型は雇用契約を結ぶものになりますが、勤務時間は1日4時間程度と、短いケースがほとんどなんですね。一方カムラックでは1日6〜8時間、週30時間以上勤務で社会保険にも加入できます。またA型のお給料の平均はだいたい月6~7万円ですが、うちでは月15〜20万円稼ぐことができます。業務内容はITを活用したシステム関連が中心で、会社に来てパソコンを立ち上げて、2画面やタブレットを使うホワイトカラー的なお仕事というのも特徴的な点です。身近なところですと福岡市さんのホームページの作成のお手伝いもしていますし、アプリ開発などの仕事も増えてきています。(カムラックグループの支援体制と段階的支援のイメージ図)


さらに、我々の最終的な出口は障がい者メンバーの一般就労ですが、就労移行支援を受けられるような15〜20万円のA型を実現するには普通のA型も必要だし、普通のB型だけではなくA型にステップアップするためのB型も必要だということで、段階的支援を構築することにしました。高い工賃をもらえるからとそのまま同じ事業所にとどまるのではなく、例えばB型である一定額まで稼げるメンバーはA型に引き上げるといった流れを作ることで、人材の成長を促しています。また、障がいのある子や発達に特性のある子を支援する放課後等デイサービス「かむらっきーず」もスタートし、子どもの頃から大人になって就職するまでをカムラックがワンストップで支援できる仕組みを強化しています。
直近では大賀薬局さんと業務提携を結び、新たな取り組みを始めました。カムラックの障がい者メンバーが大賀薬局さんの業務を担当し、一定のレベルに達すると大賀薬局さんへの就職の機会が提供されるというもので、我々も色んな企業とコラボしていますが、こうした打ち出し方は初めての試みとなります。
このプロジェクトの目的は、法定雇用率を守る数合わせの障がい者雇用ではなく、戦力としての雇用を行おうというもので、大賀薬局さんの後に続く企業が出てきてほしいという思いもあります。ありがたいことにたくさんのメディアにも取り上げていただきました。
商品やサービス、技術といったノウハウで顧客を持つ企業が、法律で定められているからと無理やり障がい者を雇用するのではなく、我々と連携することでお互いに支え合う関係が生まれることが理想です。そうすることで、新たな障がい者の活躍事例をどんどん作っていけるのではないかと思っています。



社会とつながる分身ロボット


オリィ研究所 高垣内(以下 高垣内):弊社はテクノロジーで人類の孤独を解消し、これからの時代の社会参加を実現することを目指しています。なぜこうしたビジョンを掲げているかというと、創業者が不登校で、小学校から中学校まで学校に通うことができなかったんですね。かつ病気がちでベッドの上から天井ばかり見る生活が続いたことから、家からでも社会につながりたい方はたくさんいるのに、その仕組みがないと感じたのが始まりです。私自身ももともとヤングケアラーでして、ケアのために外に出られないという生活を長く経験しましたので、この理念に強く共感しています。主力プロダクトとして、先程西依さんからもお話があった「OriHime」という分身ロボットを取り扱っています。
「OriHime」を使った独自の取り組みとしては、2021年6月、日本橋に分身ロボットカフェをオープンしました。総スタッフは90名で、そのうち「OriHime」を操作するパイロットは70〜80名いらっしゃいます。みなさん外出困難者で、一番遠いところだとイタリアから操作していただいています。私が驚いたのは、パイロットの募集に関しては自社のSNSで告知をした程度で、大々的に広告を打つようなことはしなかったのですが、数え切れないほどのエントリーがあったことです。遠隔であったとしても働きたいという方がこれだけいらっしゃるんだということを改めて感じました。(分身ロボットカフェ DAWN ver.βの画像)


我々はロボットを作っている会社なので、カフェを経営するノウハウなんて一切ないし、別にカフェを経営したかったわけでもないんです。ただ現状、重度の肢体不自由者の就職率はかなり低く、かつ減少傾向にある。何をさせればいいかわからない企業と、何をすればいいのかわからない肢体不自由者の間でアンマッチが起きている。そもそも私たちは学生時代にアルバイトをしながら、社会がどんなものなのかを学んでいきましたよね。でも肢体不自由者をはじめとする外出困難者の方々はそういった就労経験を積むことができない。だったらその仕組みを作ればいいと考えました。外出困難者が社会参加できて、そこから他のお仕事にもチャレンジできる場になりうるベストな業態がカフェだったということです。
こうした取り組みを続ける中で、カフェで働くパイロットに対して、他企業から「うちで働きませんか?」というお声がけをいただくようになりまして、就労の場がどんどん増えてきています。某スイーツショップで販売員をされている方は、後天的な脊椎損傷で首から下が全く動かないのですが、口で「OriHime」を操作してコミュニケーションをとられています。SMAという難病を患いながら、兵庫から遠隔で東京のハンバーガーショップに勤務されている方もいらっしゃいます。JR関内駅のカフェにも「OriHime」を設置していまして、私も話したくて何度か行ったんですけど、いつも固定客がついているんですよね。「OriHime」がいることで、そのお店が地元の方々の憩いの場になっているというのは嬉しいことです。最後にこの絵を見てください。すごくきれいですよね。こちらは「OriHime eye+Switch」という意思伝達装置を使って制作された作品です。ALSの方が視線入力だけで描いたものなのですが、この装置を使えば声が出なくても自分の意思を伝えることができて、体が動かなくてもPCを操作して絵を描くことができるんですね。我々が目指しているのは、外出が困難でも、できない理由があったとしても、やりたいことの選択肢があって、モチベーションがあって、それを諦めなくていい社会をテクノロジーで作ることです。



スーツケースで視覚障がい者を導く



清水建設 貞清(以下 貞清):
私はここ10年ほど、視覚障がい者の移動支援のための研究開発を行っております。スマホなどの発達によって視覚障がい者の情報アクセスも非常に便利になりましたが、自分の行きたいところに自由に行くリアルなアクセスとなると、これだけ技術が進んでもなかなか実現できていないという現状があります。その問題を解決するため、「AIスーツケース」というものを開発することになりました。枠組みとしては弊社、アメリカのカーネギーメロン大学、弊社を含む5社で創設したコンソーシアムでそれぞれ独自にスーツケースの開発を行っております。


●AIスーツケース / 次世代移動支援技術開発コンソーシアムについて
https://caamp.jp/

「AIスーツケース」のコンセプトの提唱者は、日本科学未来館の館長である浅川智恵子さんです。彼女自身も全盲の科学者で、どんな機能が必要か、実際に使ってみてどうかというフィードバックを細かくもらいながら、開発を進めています。
弊社が独自に開発しているスーツケースはちょっと無骨な見た目のものですが、簡単に部品を交換できるので、最先端のセンサーや安い部品を使いやすいという利点があります。(コンソーシアム版およびシミズ版のAIスーツケース使用風景)


ただ残念ながら、中には色んなものが詰まっているので、まだ荷物を入れられる状態にはなっていません。GPSの電波が届かない屋内でもどこにいるのかを認識する技術、力覚センサを搭載したハンドル、周りの歩行者や障害物を認識・回避する機能、人を引っ張るためのバッテリーなどを内蔵せねばならず、これらを全て入れるとなると、今のところスーツケースの中にやっと収まるといった状況です。
また行きたい場所を検索する時、目が見える方であれば普通にスマホで操作できるんですけれども、視覚障がい者には難しいため、音声で行きたい場所を伝えたり、正式な名前がわからなければ対話で検索してその店を特定して行くといった機能も搭載しております。
これからの社会実装に向けて、さまざまな場所で実証実験やデモンストレーションを行ってきました。ところが実際に社会実装しようすると、まず視覚障がい者がロボットを使って自由に歩くことを社会が許容できるのかという問題が出てくるんですね。例えば「AIスーツケース」を持って空港を歩いた時に、白杖を持っていないので健常者だと思われて、「なんでこの人避けないの?」といった状況になることがある。ですので、スーツケースと併せて白状を持つべきなのかなど、考えなければいけない課題がまだまだございます。
視覚障がい者の方は「自己責任で使うから早く世に出してほしい」とおっしゃられるんですけど、いち民間企業として、安全面に懸念のある商品を販売することにはやはり慎重にならざるを得ない。ただこうしたものは自己責任の部分がないと進まない側面もあるんですね。それに価格も高いので、広く使っていただくためにはコスト削減の挑戦も続けていかなければならない。例えばショッピングモールのような場所で貸し出して、機能とコストの実用性を検証するのもいいかと思います。
最後に、弊社が開発したアプリ「インクルーシブ・ナビ」も紹介しておきます。スマホで視覚障がい者をナビゲートするサービスで、屋内で使用できるのは世界でこのアプリしかありません。しかし、これもコストの問題もあってなかなか導入が広がらない。そういった課題も含めて、今後「福岡100ラボ」の目指す社会に弊社も微力ながら協力させていただければと思っております。


●インクルーシブ・ナビについて
https://www.nihonbashi-tokyo.jp/inclusive_navi/




障がい者支援における企業の役割



片田江:
みなさんのお話の中で共通していたのは、テクノロジーやこれまでにないやり方で障がい者の活躍の場を創造しようとされている点だと思います。賀村さんは先程「戦力としての障がい者雇用を」とおっしゃられていましたが、具体的にどんなところがポイントになると思いますか?


賀村:企業が障がい者を雇用するとなると、重度の方がやっとの思いでやっているというイメージが強いと思うんですね。それが悪いと言っているわけではないですよ?でも、そのイメージゆえに、うちで15〜20万円稼いでいるようなエース級のメンバーを送り出しても、掃除やコピーなどの作業レベルの業務を任されてしまう。これってすごくもったいないことだと思うんです。
そこでどうしているかというと、アウトソーシングしている業務も含めて、その企業のお仕事の内容をまずは見させていただくんです。その上で「じゃあ、これとこれとこれを我々に1年間発注してください。1年後にそのお仕事のプロに育て上げます」と。その中から採用すれば、わざわざ企業側が任せる仕事を作るようなことをしなくてもいいし、戦力として雇用できる。大企業だと特に、実際の業務はオペレーションだったりするんですよ。障がいの有無とか、実はあんまり関係ないんです。そういった形で企業との協力体制を築いているところが、うちの成功事例であり、強みでもあるのかなと思います。


片田江:高垣内さんと貞清さんもさまざまな企業や大学と手を組まれていますが、連携することの価値はどこにあると思いますか?また社会とフィット&ギャップされる中でどんなことに注力されているのでしょうか?


高垣内:賀村さんもおっしゃられていましたけど、まずはイメージを壊すことが必要ですよね。「障がいのある人が接客できるわけないじゃん」って本当によく言われるんですけど、我々以上に上手な人はたくさんいます。障がい特性だけではなくて、人としての特性にももっと着目すべきだと思います。


片田江:一人ひとりの個性や能力ということですね。


高垣内:そうです。例えば「発達障がいの人」「パニック障がいの人」というように一括りにしがちですが、パニック障がいがあっても、すごくコミュニケーション力の高い方はいらっしゃるんですね。ただ外に出られなかったり、人前に立つと話せなくなったりするだけで。企業も自治体も、過度な配慮をしすぎるというケースがよくあると思うんです。それは違うということをまずお伝えして、人手不足の課題感を一緒に考えていきながら、どんなところであれば外出困難者が活躍できるかをお話しすることが重要かなと思っています。
もっと言うと、我々がいくら頑張っても抱えられるパイロットの数には限界があります。でも世の中にはもっともっと、移動が難しくても働きたいと思っている方がいらっしゃる。企業と話をすると、我々のパイロットを使いたいと言われる場合が多いのですが、それだと全くもって意味がない。ノウハウに関しては我々がこれまでの11年間で積み上げてきたものを共有させていただきますので、より多くの企業に外出困難者を雇用できる体制を整えてほしいなと思います。


貞清:私たちはもっと、障がい者が持つ優れた能力を活用するというところに着目すべきだと思います。例えば今治タオルの肌触りを視覚障がい者が検査するというのは有名な話で、視覚障がい者は健常者よりも皮膚感覚や触覚が優れていると聞きます。弊社の会長も、視覚障がい者が人事採用を行えば、見た目に左右されずにその人の真の価値を見極めることができるのではないかと話していました。
それで質問の答えに戻りますけれども、障がい者を支援する技術というのは、どうしても会社の中では「儲からない技術」とされがちなんですね。だからこそ理念を共にするパートナーが集まって、そういった技術をできるだけ早く世に出すためにそれぞれの技術やソースを提供することが近道になります。ある意味CSRに近い発想なのかもしれませんが、今回の「AIスーツケース」に関しては特にそういった色合いが強いですし、オープンイノベーションの価値があると思います。


福岡100ラボ事務局:お三方のお話を聞いて、西依さんはどんな印象を持たれましたか?


西依:貞清さんがおっしゃられた「儲からない」という点は大きな問題ですよね。企業のみなさんは色んな技術を持っていらっしゃるのに、それがビジネスとして成立しなければ、なかなか世に出せないというもったいない状況がある。そこで行政の出番です。サービスを持たない行政は単体では何もできませんが、儲かるか儲からないかわからないといった技術やサービスに対して、実証などのフィールドを提供することはできます。それで障がいのある方をはじめとする市民の生活の利便性が高まるのであれば、私たちは積極的に協力していきます。行政の取り組みはマスコミにも注目されやすいので、ぜひ行政を利用するという視点でも構いませんので、ご提案いただけたら嬉しいですね。


賀村:「企業は社会の公器」と言われるように、そもそも企業は社会課題を解決するために事業をやるのであって、その利益を納税したり社会に再分配するものだという根本のマインドを、組織の中に浸透させることが必要だと思います。あとはパイをどこまで広げるか。障がい者にとって便利なものって、健常者にとっても便利なものなんですよ。テレビのリモコンだって、障がい者がいなかったら生まれなかったかもしれない。でも今はそれが世界のスタンダードになっている。障がい者用のお皿なんかもそうですよね。片手で持てて、中身がこぼれないような構造になっているんだけど、使う人が少ないから高いし、見た目もあんまりオシャレじゃない。でも今、みんなスマホ片手に食事するでしょう?だったらもっとみんなが使えるようなデザインにすれば、ビジネスの幅も広がるかもしれない。だから、彼らから学ぶことって実はすごく多いんですよね。


高垣内:「OriHime」は障がい者向けにしか使ってはいけないと思われている企業がとても多いんですけど、別にどんな使い方をしていただいてもいいんですよ。我々は移動困難者の課題を解決したいだけであって、その中の一部の人が障がいを持っているというだけなので。私は浜松に住んでいて、東京や福岡などさまざまなところに行くのですが、移動時間がもったいないので、東京に私の分身ロボットがいますし、もう一つ仕事をしているんですけど、そちらのオフィスにも買おうと思っています。私もある意味、移動困難者なんです。なのでもう少し視点を広げて、賀村さんもおっしゃったように、より一般化していくことも大事なのかなと思っています。


貞清:「障がい者のためだけの〇〇」というのは、やっぱり限界がありますよね。アメリカやヨーロッパでは障がい者に対する考え方が日本とは大きく違っていて、何かサービスを提供する時に、健常者だけを対象にするのはあり得ないという風潮がある。そういう多様性を認める社会が必要なんだと思います。って、そんな大きなことは言えないので、多様性を認められる自分でいたいなと思っています。


高垣内:その人の特性に応じて活躍できる場も変わってくるので、複数の選択肢も必要ですよね。今日何度も言いましたが、やはりそのためには企業の協力が不可欠です。正直、「OriHime」を使って働く環境を整えてくださっている企業はまだまだ少ないんですね。でもその場所が1000できれば、一つの「OriHime」の中で10人は働けるので、1万人の雇用が生まれるわけです。そういった状況を早く整備していきたいし、その先駆都市となるのが福岡市だと期待しています。


賀村:僕も福岡が大好きなので、全国の都市から「福岡ってすごいね」と言われるようなまちにしたい。福祉に携わる方はみなさんご存知だと思いますが、大分の別府に中村裕博士が開所した「太陽の家」という施設があります。その中村博士とオムロン創業者の立石一真さんが障がい者雇用のために設立したのが「オムロン太陽」で、障がい者が定年まで働けて納税できるインフラを作った初代なのではないかと思います。そして、それを見たソニーやホンダが後に続いて「ソニー太陽」や「ホンダ太陽」が生まれた。法定雇用率や障がい者就労支援のない時代に、経営者たちがあれをやったというのが素晴らしいですよね。そういう意味ではやっぱり企業の力が必要で、私は福岡の「オムロン太陽」を作りたいし、それに続くソニーやホンダが出てきてほしい。障がい者の本当の活躍の時代を、みんなで一緒に作っていきましょう。


西依:今日のお話は福岡市として参考になるポイントがたくさんありました。そして、企業のみなさんとタイアップすることによって、無限に広がる可能性があると感じました。みなさん、どうもありがとうございました。



登壇者プロフィール


賀村 研 / 株式会社カムラック 代表取締役
愛媛県松⼭市出⾝。2013年に株式会社カムラックを設⽴し、IT業界での営業経験を活かし障がい者⽀援事業に参⼊。ITを活⽤した仕事を創造することで、働く障がい者の新しい未来創りにチャレンジ中。その他、障害者雇用基準認定協会代表理事、株式会社あいふろいで相談役など多数。


高垣内 文也 / 株式会社オリィ研究所 事業開発部マネージャー 
⼤学卒業後、製薬会社、⾃動⾞会社を経て2023年にオリィ研究所に⼊社。事業開発の責任者として分⾝ロボット「OriHime」を活⽤した就労環境の構築に従事。⼀般社団法⼈ヤングケアラー協会理事、経産省始動7期(2021年)、JHeC2022優秀賞。


貞清 一浩 / 清水建設株式会社 技術研究所 ロボティックス研究センター 上席研究員
清⽔建設に⼊社後、数⼗年にわたり建物の設備制御やICTを活⽤した空間制御システムの研究開発に従事。2014年からスマートフォンを利⽤した視覚障がい者向けの屋内ナビゲーションシステム、さらにそれを進化させたナビゲーションロボットの開発プロジェクトを主導。博⼠(事業混層学)


西依 正博 / 福岡市役所福祉局 障がい者部 障がい企画課⻑
農林⽔産局鮮⿂市場⻑、経済観光⽂化局経営⽀援課⻑を経て、2020年4⽉より現職。市舞鶴庁舎(障がい者就労⽀援センター等複合施設)の整備や障がい者⼯賃向上⽀援センターの開設に携わり、現在はICTを活⽤して外出困難な重度障がい者の就労実現に取り組んでいる。




福岡100 ラボは、人生100 年時代を見据えた、持続可能なまちをつくるプロジェクト「福岡100」を、企業や団体、大学など多くのみなさんと一緒に実現していくための共創の場です。随時提案を募集しています。
「福岡100ラボmeetup!」では今後もさまざまな意見交換を行い、人生100年時代に向けた暮らしのアップデートを目指していきます。次回も近日開催予定!どうぞご期待ください。


■お問い合わせ先
https://f-100lab.jp/contact/





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